予知性のある歯科臨床を求めて- 第28回日本顎咬合学会学術大会・総会

東京国際フォーラム総合受付 各企業の展示ブース
▲ 東京国際フォーラム総合受付 ▲ 各企業の展示ブース

2010年6月12日(土)・13日(日)の2日間、東京国際フォーラムにて、第28回日本顎咬合学会学術大会・総会が開催され、全国の歯科医師、歯科技工士、歯科衛生士、歯科助手、臨床研修医などの歯科関係者が、延べ4,116名が来場されました。

日本顎咬合学会理事長であり、今大会会長である山地良子先生及び、プログラムチェアマンの林揚春先生の挨拶で幕を開けた、今回の「予知性のある歯科臨床を求めて」と題された学術大会では、特別講演に米国歯周病学会より優秀臨床医師賞を受賞されているデニス・ターナー氏を招くほか、GBRの生みの親であるウィリアム・ベッカー氏や、韓国口腔インプラント学会初代会長であるソン・ドン・ソク氏らの講演で会場を盛り上げました。

また、これからの歯科医療の目的の一つとして歯科保健の積極的な参加が期待されている<食育>について、“かむことは食育の入り口”と題した一般の方も参加できる公開フォーラムなどを企画し、正しい「食べ方」と健康との関係や咬み合わせに関する健康と知識を普及させるための講演も多く見られました。
※『日本顎咬合学会』は、咬合について統合的な観点から、臨床の場で患者さんのニーズに応えられる機能を持った国内学会の設立機運が高まり、1979年3月「国際ナソロジー学会アジア部会」を経て、1982年7月、『日本顎咬合学会』として分離独立しました。2009年10月現在、会員数は国内はもとより韓国、台湾にも及び、6,594名を数えます。1983年から毎年1回「学術大会」を開催し、会員の研究成果に発表の場を与えるとともに会員の研鑽の向上を図っています。


【デニス・ターナー氏による特別講演】
前歯部の審美性とインプラント― 何を知らなくてはならないのか?何を学ばなければならないのか? ─

講演するデニスターナー氏 特別講演会場の様子
▲ 講演するデニス・ターナー氏 ▲ 特別講演会場の様子

特別講演として企画されたこのプログラムは、約1,500人を収容する会場に立見の人が出るほどの参加者がおり、改めてデニス・ターナー氏の講演内容の関心の高さをを伺い知ることができました。

日頃、デニス・ターナー氏が携わる症例のうち約50%が、他の歯科医院でおこなわれたインプラント治療のやり直しであるという現実を「患者様も苦痛、治療する側も苦痛」と悲観され、今一度、歯科医師の方々にインプラント治療における基本の大切さを再認識してほしいという思いから、サブタイトルを「何を知らなくてはならないのか?何を学ばなければならないのか?」としました。トラブルをおこしやすい症例や審美的な配慮が特に必要な前歯部の症例を紹介しながら熱心にお話しされました。

中でも、軟組織に問題がないと判断しただけでインプラント埋入してしまう症例が多く、頬側骨板がないままにインプラントをすることが、いかに危険かを「No Buccal Plate,No implant(”頬側骨板がなければインプラントはしない”)」という合言葉とともに、繰り返し訴えられました。

どんなに経験を積んでも、常に患者様一人ひとりの立場になって、研究や文献をふまえたきちんとした診断と治療計画をたて、確実に計画を実行していくことが必要だということが強く印象に残る講演となりました。



招聘講演
▲ 招聘講演

【招聘講演】
GBRを検証する ― 骨再生誘導法:概念から現実へ このような処置は臨床的成功に必要か? ―

 GBRの生みの親であるウィリアム・ベッカー氏が、歯周病及びインプラント治療で約20年間使用されているGBR法やGTR法(組織再生誘導法)の在り方や今後の展望について講演をされました。
 GBR法やGTR法が永続的だと考える臨床歯科医師や企業がいる中で、この材料が実際にどの治療に適応できるのか、またその限界について、GBR法にとどまらず、ご自身の症例を参考にあげながら説明をされました。長年使用されている技術や材料について、多くの症例を知ることで、その可能性と限界を認識して、今後の治療に反映させていかなくてはならないというウィリアム・ベッカー氏の姿勢が伝わる講演となりました。

LIVE OPE
▲ LIVE OPE

【LIVE OPE】
低浸襲で失敗しにくいサイナスリフト ― ピエゾエレクトリック・デバイスを用いて ―

 上顎全欠損の患者様のインプラント埋入のライブオペが、明海大学の嶋田敦氏によって医院からの中継でおこなわれました。
顎の骨がかなり痩せている患者様で、GBR法で骨を増やす治療をした後に1回法でインプラントを埋入するという内容のオペがおこなわれ、会場から質問があれば、オペ中でも一つひとつ確認しながら進行するという流れとなっており、大変わかりやすいものでした。
ピエゾの水圧と振動を用いた浸襲の少ない上顎洞挙上術
 その後、ソン・ドン・ソク氏より、ピエゾエレクトリック・デバイスを用いたサイナスリフトの症例の紹介がおこなわれました。日本にはあまり普及していない機器ですが、この機器の水圧と振動を用いることで、難症例の治療に対して、短時間・低浸襲での治療が期待できると強く主張されていました。



【メーカーシンポジウム】
 歯科医師とメーカーが提携しておこなわれたシンポジウムも3つ企画されていました。中には抜歯即時埋入について20の質問が用意され、5人の歯科医師が見解・回答を述べ、それについて討論をするというユニークな形式のものもありました。

【公開フォーラム:食育シンポジウム】
 約1,500人収容の会場が満席になった注目の公開フォーラムでは、“かむことは食育の入り口”と題した講演会がおこなわれました。「認知症」や「キレやすい子供」が増える現代社会を背景に、“かむこと”が脳の発達に大きな影響を与えると、パネリストの方々が訴えました。かむこと、食べること、食事の際のコミュニケーションの大切さについて改めて考えさせられるものでした。

【シンポジウム】
 シンポジウムは、メーカーシンポジウム、食育シンポジウムのほかに、歯科医師向けシンポジウムなど3つのシンポジウムが開催されました。咬合と全身の痛みの関係性について「患者様に対して、歯科医師としてどのような対応をしていこくとができるか」についての発表がありました。

【ケースプレゼンテーション】
 他の会場では若手の歯科医師が日頃の研究成果を発表するケースプレゼンテーションが盛んにおこなわれていました。
 特別講演をしたデニス・ターナー氏をコメンテーターに迎えたプレゼンテーションでは、200人の会場が満席となりました。若手の歯科医師による症例発表に続き、デニス・ターナー氏の厳しいコメントが飛び交う場面もありましたが、最後には、内容・発表のレベルの高さが賞賛され、幕を閉じました。

【その他のセミナー・イベント】
 ランチョンセミナーでは、新しい歯科医療機器等の今後の展望について討論会がおこなわれたほか、地下の大きな会場を使った展示ブースでは、恒例のポスターセッションや90分間のテーブルクリニック、有料ハンズオンがおこなわれ、日頃診療にあたっている先生方が熱心に講義に耳を傾ける姿が印象的でした。

メーカーシンポジウム
▲ メーカーシンポジウム
シンポジウム
▲ シンポジウム
ケースプレゼンテーション
▲ ケースプレゼンテーション

【その他のセミナー・展示ブースやイベントの様子】

ポスターセッション テーブルクリニック プレゼンを終えた先生方の表彰式
▲ ポスターセッション ▲ テーブルクリニック ▲ プレゼンを終えた先生方の表彰式

【取材を終えて】
 2日間に渡って行われた今回の学会では、「疲弊している歯科業界」という印象を全く感じさない活気のあるもので、若手の先生や経験のある先生に限らず、歯科業界全体が一丸となって勉強に励まれていた姿がとても印象的でした。現代の複雑な状況の下、患者様のニーズも多種多様になり、歯科医師として正しい知識と多くの経験を積むだけではなく、新しい治療法や新しい商品・機器の今後の可能性を5年先、10年先を見据えながら探っていくことも重要であることを実感しました。


レポート:インプラントネット事務局
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