花梨さん(愛知県)の相談
今年5月末、上顎に即時負荷で、all-on-4の手術をしました。術後は良好で、徐々に食事も摂れるようになり、術後3ヶ月を経過した頃には、ほぼ通常の食事が可能となりました。
しかし、突然インプラントの埋入部分が痛みだし、噛むことができなくなりました。痛み止めの薬を飲まないといけないくらいの痛みです。固いもの、粘着性のあるものを食べたわけではないのに・・・です。
主治医を受診したところ、インプラントが動揺しているとのことでした。負荷に耐えられないとの見解で、もう1サイズ太いインプラントに入れ替えをし、即時負荷はやめて総入れ歯で半年待つ方針となりました。
インプラントの入れ替えは骨の回復を待たずに行えるのでしょうか?
術後より3ヶ月良好に経過したのに急に痛みが出た原因は何でしょうか…?
再手術が不安です。よろしくお願いします。
- かねこ歯科インプラントクリニック
- ( 山口県 下関市 )
- 2010年11月09日21時39分
ご質問ありがとうございます。
山口県 かねこ歯科インプラントクリニックの金子 茂です。
インプラントの失敗は、通常2ヶ月以内に起きることが多いといえます。骨結合はこの期間に始まるためです。
3ヶ月以降のインプラントの失敗の原因は、(1)補強や調整不足による仮歯の破折、(2)骨幅の少ないところに無理に埋入したことによる周囲骨の喪失、(3)抜歯即時埋入のときに抜歯窩のギャップに骨ができなかったことなどが考えられます。
その他、喫煙は大きなリスクファクターです。もしも喫煙者ならば必ず禁煙してください。喫煙は、オールオンフォー失敗の原因になります。
歯ぎしりや過大な噛み合わせの力も大きなリスクファクターですが、いかんともしがたいものです。インプラントの本数を増やしたり、埋入手順を変更しなければなりません。(女性なのでこれには当たらないかもしれません。)
ところで、オールオンフォーは前方2本、後方傾斜2本のインプラントから成り立ちます。恐らく、失敗は後方の傾斜インプラントと思われます。
痛みがあるようですと、除去しなければならないと思います。アバットメントを外して荷重をかけないようにしても、骨結合は喪失しており脱落すると思います。
排膿や炎症症状がなければ、インプラントの除去と同時にインプラントの埋入が可能です。
排膿は炎症があれば、インプラントの除去を行い2ヶ月以降にインプラントの再埋入を行います。
後方傾斜埋入インプラントには、標準サイズ(RP)のインプラントが埋入されています。標準サイズのインプラントには、30度角度補正アバットメントが連結でき、インプラントの角度補正ができるためです。
ところが、純正N社の直径の太いワイドサイズ(WP)のインプラントには角度付きアバットメントを連結できません。高さの補正も3mmまでしかできません。
このため、ワイドのインプラントを使用すると、補綴治療(上部構造の治療)ができなくなる恐れがあり、注意が必要です。
解決策として、N社ではなく、B社のワイドインプラントを使用することです。B社の外側六角ワイドインプラントには、N社の角度補正アバットメントを連結することができます(プラットフォームスイッチング)。N社の標準径と、B社の標準径、B社のワイド径には互換性があります。
または、骨が回復するまで6ヶ月程度待ってから再手術も可能と思います。
もしも、上顎結節(上顎の親知らずの部分)に骨が残っていれば、上顎結節や蝶形骨にインプラントを追加埋入することもできます。即時荷重はできませんが、通常通り4ヶ月で荷重可能です。
その他、基本に返りサイナスリフトや、特殊なザイゴマ•インプラントという方法もあります。
残る3本のインプラントが骨結合をおこしていれば、噛み合わせにもよりますが、しばらく3本足で仮歯をささえられることもあります。
両側の前方インプラントの間には、切歯管という神経の管があります。この神経は除去しても問題ありません。神経除去後の切歯管にインプラントを追加埋入して、合計4本のインプラントで維持することも可能と思います。切歯管の骨は硬く、即時荷重ができると思います。
これらの方法を使えば、取り外しの総入れ歯での生活を免れることができます。
日々の診療で考えることですが、歯の治療には非常に細かい処置の積み重ねが必要です。正確に1つずつ積み重ねた結果、はじめて歯の治療は成功するのです。
インプラント治療はその傾向が強いといえます。特にオールオンフォーは、最も正確な手順の積み重ねが必要な、ともすれば「あやうい治療」だと考えています。
オールオンフォー治療は、まさに「綱渡りの連続」です。しかし、一般的なオールオンフォー治療の説明では、そのようなことは触れられないため、「簡単に即日治療完了」と誤解されやすいと思います。
花梨さんのオールオンフォーに正確な再手術がなされ、不安な気持ちが解決されることをお祈りしています。