キャロルさん(神奈川県)の相談
初めまして。上顎のオールオンフォーの手術を先週受けましたが 術後の経過についてご相談させていただきたく投稿しました。
当初はオールオンフォーで4本入れる予定でしたが、手術当日になり主治医より6本入れた方が良いと薦められて6本入れる手術を受けました。その日のうちに仮歯が入るとの話でしたが出血が酷くて入れられず、1週間経つ今でも出血し、顔の腫れもまだあり、目の周りや唇がうっ血しています。痛みもあるのでボルタレンという薬を毎日6回飲んでいます。
手術を受けて丁度1週間経ちますが 経過があまりにも聞いていた話とは違うので、心配です。大丈夫なのでしょうか?
オールオンフォーと言いつつ6本入ってますが、それでもオールオンフォーには変わらないのでしょうか?
ご回答お待ちしております。
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- かねこ歯科インプラントクリニック
- ( 山口県 下関市 )
- 2011年08月31日21時31分
かねこ歯科インプラントクリニックの金子茂です。
オールオンフォーとは、歯をすべて失った患者さんに(または、患者さんの残った悪い歯をすべて抜いて)、4本のインプラントを埋入、即日に12本分の歯ぐき付き仮歯を固定させる治療を意味します。
荷重を効果的に分散させるため、後方2本のインプラントは上顎洞の前壁に沿って、意図的に傾斜埋入させます。
私の経験では、下顎のオールオンフォーの場合は、4本のインプラントで即日仮歯を入れることができます。
一方、上顎では、手術当日に埋入本数が増えることがしばしば起こりえます。
上顎の骨は軟らかいため、4本すべてに35Ncm以上の埋入トルクを得ることができないことがあるからです。この時は、追加のインプラントが必要になります。
初期トルクを得られなかったインプラントは歯ぐきの下に沈めておき、トルクのかかった4本を、仮歯を支えるインプラントにして対応するのです。
沈めたインプラントは、4ヶ月後に2次手術を行い機能させます。
したがって、骨が脆弱な場合は、上顎ではしばしば5本のインプラントが必要になります。6本埋入の可能性もあります。
まれに第一大臼歯部まで骨量が十分ある平易なオールオンフォー症例の場合は、後方インプラントを傾斜させずに6本まっすぐ埋入するように、Malo先生もマニュアル化しています。簡単な症例では、意図的に6本を通常埋入させるのです。
術前に埋入本数が増える可能性を説明できたかもしれませんが、キャロルさんの顎骨は予想よりも軟らかく、4本から6本になったのかもしれません。
4本から6本インプラントを埋入するので、無歯顎の即時インプラント治療をひっくるめて「オールオンフォーコンセプト」とよぶこともあります。
さて、Malo先生がはじめて論文に報告したオールオンフォーの症例数は、わずか40例程度だったと記憶しています。年間6000本以上もインプラントを埋入するドクターにしては、報告症例数が少なすぎます。
これは、「4本のインプラントで即時荷重をした典型的なオールオンフォーの症例数が、わずか40例程度だった」ためではないかと思っています。Malo先生でも、5本以上でオールオンフォー(コンセプト)をした症例の方が多かったのかもしれません。
その日のうちにすべての歯を回復させるオールオンフォー治療は、歯の治療でもっとも難しい治療のひとつだと思います。
このため、術中に予定外のことが多く起こると思われます。
キャロルさんの場合、初期固定が得られなかったため、仮歯が入らなかったそうです。
私の経験では、下顎ではすべての患者さんに、手術当日に仮歯を装着してお帰りいただけています。
しかし、上顎の場合、15%の症例で即日に仮歯を装着できないことがあります。35Ncmの埋入トルクを得られないことが原因です。どんなに経験を積んた歯科医でも、トルクを得るのが不可能な場合があるのです。
術直後に、仮歯を装着できない患者さんの多くが、部分入れ歯をはじめから使っている女性です。事前にそのことを説明しており、部分入れ歯に慣れているので苦情はありません。
しかし、重度の歯周病のため、抜歯即時埋入即時荷重(歯を抜いたその日にインプラントを埋め込んで、仮歯を装着すること)ができなかった患者さんが、ひとりいました。この患者さんの場合は、インプラントが骨結合を起こして仮歯が入るまで、4ヶ月間取り外しの総入れ歯の状態が続きました。もちろん、埋め込まれたインプラントは骨結合を獲得し、4ヶ月後には仮歯が入り、審美性も咀嚼機能も改善されました。
4ヶ月待つことは通常のインプラント治療だと弁解しても、当日に歯が入ると期待していた患者さんには不満があったと思います。手術をした私にも、患者さんにも、4ヶ月間は非常に長く感じられました。
その苦い経験をふまえて、今では手術当日に必ず仮歯を装着させるために工夫をしています。自分の歯が数本残った状態で、あらかじめ1〜2本インプラントを埋入しておくという前準備をおこなったり、ノーベルアクティブというトルクを得やすい新型インプラントを使用したり、ストローマン社のSLActiveという1ヶ月で骨結合が可能な新しい表面性状のインプラントを使用したりして、患者さんの期待に答えるように自分なりに手術法を改良しています。
キャロルさんの場合、1週間経っても出血したり、痛みがあるのは問題かもしれません。
出血は翌日朝には止まっているのが普通です。もしもキャロルさんが、気になってうがいを頻繁にしているのならば、止めてください。うがいで血餅を流しているかもしれないからです。
痛みも数日でなくなります。腫れは3日がピークで1週間でなくなります。目や唇の周りのアザは、しばらく続き、3週間くらいしてから消えます。
痛みが心配です。インプラント手術が失敗しているときは、ふつう痛みを伴うからです。痛みが日々軽減傾向にあれば心配ありません。しかし、3週間後に初期固定が緩む時期がくるので、この時期まで痛むのならば問題があると思います。
今後の経過を見続けないと分かりませんが、痛みや出血が続く場合は、経過が良くない可能性もあります。
執刀医の先生によく診てもらってください。
お大事にされてください。