インプラント治療のリスクとは?治療前に要チェック!

「インプラントにはリスクもあると聞いたことがあるから、治療を始めるのが少し怖い…」そんな風にお考えの方も多いのではないでしょうか。

インプラント治療にはいくつかリスクがあるため、それらについて適切に把握することは重要です。今回は、インプラント治療のリスクを手術前、手術中、手術後の3つに分けて紹介し、インプラント治療のリスクを高めてしまう病気についても解説します。

更新日:2024/05/27

インプラント リスク

■目次

  1. インプラント治療のリスクを知っておこう
  2. インプラント手術前のリスク3つとは?
  3. 手術中のリスク3つとは?
  4. インプラント治療のリスクが高い病気
  5. まとめ

インプラント治療のリスクを知っておこう

インプラント治療を行うにあたっては、いくつかのリスクが生じることになります。
リスクが発生するタイミングは主に「手術前、手術中、手術後」であり、それぞれについて正しく理解しておきましょう。

インプラント手術前のリスク3つとは?

インプラント リスク

インプラント治療には、手術が必要です。その手術を行う前の時点で3つのリスクがあります。

歯周病や虫歯

歯周病や虫歯のある口腔環境でインプラント治療を受けると細菌感染する可能性が高く、術後の傷が治りにくくなる恐れがあります。また、インプラント体と顎骨の結合が妨げられることもあり、場合によっては再治療となってしまいます。

細菌感染はインプラント周囲炎の発症につながって、炎症でお口を開けにくくなってしまうなどの可能性もあるため、インプラント治療を行う前に治療の必要な虫歯や歯周病は治療しておきましょう。

噛み合わせ

噛み合わせが悪いと上下の歯が接触する部分が少なくなり、接触のある部分の歯のみに対して噛む力が集中します。また、埋め込んだインプラントが力が集中する箇所に存在する場合は、装置に過剰な力がかかる恐れがあります。

その結果、骨とインプラントの結合が阻害される可能性が出てくることに加え、インプラントの破損につながる可能性が高まります。手術を行った後に脱離の問題が発生することがないように、インプラントを埋入する前に噛み合わせに違和感がある場合は調整してもらっておきましょう。

骨量や骨質

顎骨の量が足りなかったり、骨の質が悪かったりするとインプラントの埋入に必要な骨が足りずグラつくなど、インプラント治療そのものができなくなってしまいます。

顎骨の強度が不足している場合は、足りない骨を補う「骨造成」を行うことで治療ができるようになることがありますが、追加の手術・治療費・治療期間が必要となるため、骨量や骨質の状態が良好であるか否かは、インプラント治療を行うにあたって大事な要素です。

手術中のリスク3つとは?

インプラント リスク

インプラントを埋め込む手術中においても、複数のリスクがあり、以下の3種類が挙げられます。

神経や血管、上顎洞などの損傷

インプラントを埋め込む手術では、神経、血管、上顎洞などを傷つける恐れがあります。
神経や血管を損傷すると、顎や頬に痛み・腫れ・発熱・出血・知覚異常などの症状が発生することがあります。

手術を行う前にはあらかじめレントゲン撮影などによって顎骨の形や状態を確認するため、手術で顎骨を傷つけてしまうケースは稀です。

オーバーヒートによる骨の壊死

ドリルで骨を削って穴を開ける際、ドリルの回転が強すぎたり、削る力がかかりすぎたり、熱を冷却するための注水が不足したりすると「オーバーヒート」が起きて骨が火傷を負ったような状態になってしまいます。
オーバーヒートに陥ると、骨の細胞が熱によって壊死してしまいます。

金属アレルギー

インプラントの装置を構成する部位の一つである「インプラント体」には、金属であるチタンが用いられます。チタンが金属アレルギーを起こす可能性は非常に低いとされていますが、それでも人によっては稀に金属アレルギーを起こすことがあります。

手術後のリスク2つとは?

無事にインプラントの手術が終わったとしても、その後に発生するリスクも存在しています。

インプラントと骨が結合しない

インプラント体が骨に生着する可能性は非常に高いものの、骨と結合せずに抜け落ちてしまうケースがあります。

原因とされているのが喫煙、糖尿病、歯ぎしりなどです。喫煙はインプラント体が生着しないリスクが倍以上に増加するとされ、インプラント治療の前後に禁煙が必要とされています。

インプラント周囲炎

インプラントを埋め込んだ後に適切なメンテナンスを怠ってしまうと「インプラント周囲炎」を発症するリスクが高まります。インプラント周囲炎はお口の中の環境悪化につながるだけでなく、インプラントの脱落の可能性があります。

日頃からインプラントの周囲をできる限り清潔に保つことに加えて、定期的に歯科医院に足を運び、メンテナンスを受けましょう。

インプラント治療のリスクが高い病気

インプラント治療を受ける際に、リスクが出る可能性を高める疾患について紹介します。

糖尿病

糖尿病を患っている場合、インプラント手術後の傷の治りが遅くなるといわれています。細菌感染する危険性が増加するでしょう。さらに、骨を作る細胞や免疫細胞の機能が低下することにより、骨結合が阻害されたりインプラント周囲炎を発症する可能性も上がってしまいます。

血糖値をコントロールできない状態にある患者さんの場合は、血糖コントロールが可能になるまで、治療を延期する必要があります。手術前、手術中、手術後のいずれにおいても血糖値の管理は重要になるため、糖尿病はインプラント治療に大きな影響を及ぼす病気といえます。

骨粗鬆症

骨粗鬆症を患うと骨の強度が弱まります。骨が柔らかくなると骨結合の失敗する可能性が高くなるだけでなく、インプラント体の初期固定も失敗したり、インプラント治療そのものが適応できなくなる可能性も出てきます。

さらに、骨粗鬆症の治療薬として用いられる「ビスフォスフォネート系薬剤」を服用していると、顎骨の壊死を引き起こす可能性があるとされています。そのため、服用薬という観点からいっても、骨粗鬆症はインプラント治療にマイナスの影響が大きい病気です。

貧血

貧血の場合、日常生活に支障のない症状であっても、インプラント手術のリスクを高める要因になる可能性があります。貧血によって酸素の運搬機能が低下すると、組織において酸素欠乏が引き起こされ、さまざまな悪影響が出てしまいます。

酸素の不足は手術後の傷の治りの悪化や、免疫機能の低下にもつながります。細菌感染やインプラント周囲炎を引き起こすリスクが高まるほか、骨結合が妨げられ、インプラントが脱落する可能性も出てきます。貧血の症状がある場合はいったん手術を延期し、状態が改善するまで待つ必要が出てきます。

高血圧症

高血圧症を患っている場合、高血圧症の原因となる動脈硬化の進行を招く可能性があります。脳出血、脳梗塞、くも膜下出血、心筋梗塞、心不全、狭心症、腎不全、腎障害といった、非常に命を落とす危険の高い合併症を引き起こすことにもつながりかねません。

コントロールできない高血圧症に陥っている場合は、コントロールが可能になるまで手術ができなくなります。また、血圧のコントロールが可能な場合であっても、手術中に血圧が上昇したり、術後出血が引き起こされる可能性もあります。

喫煙

煙草に含まれるニコチンは、毛細血管を収縮させ組織への血流と酸素の運搬を阻害します。同じく喫煙で発生する一酸化炭素は、ヘモグロビンと結合しやすいため酸素とヘモグロビンの結合を妨害し、酸素の運搬効率をさらに低下させてしまうといわれています。

それによって、手術後の傷の治りが遅くなるだけでなく、骨結合の阻害やインプラントが脱落するリスクの上昇にもつながります。さらに、インプラント周囲炎の発症リスクも増し、周囲の骨の吸収も進行させることになります。喫煙者のインプラント治療は、非喫煙者に比べて低くなる傾向にあります。

まとめ

インプラント治療では、手術前、手術中、術後の全てのステージにおいて様々なリスクが起こり得ます。持病や喫煙習慣によってインプラント治療時に起こるリスクが高まるため生活習慣にも気を配る必要があります。

インプラント治療を始める前にリスクがあることを理解しましょう。自分にあてはまるものが存在する場合は、手術前に担当医に相談し、必要に応じて検査だけでも受けることが重要です。正しい知識を得たうえで、安心して治療を受けられるようにしていきましょう。

記事監修

歯科医師 古川雄亮先生

歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開

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記事監修

歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Natureに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。