インプラントの感染症とは? 原因・症状・対処法について
失った歯を補う治療で人気のあるインプラント。
治療を検討している中で「インプラントの感染症に注意」と見聞きし、不安を感じている方も多いのではないでしょうか?
具体的にインプラントの感染症とは、どのようなことが起こり得るのか。
また、感染予防対策のためには患者さんのセルフケアが大切とも言いますが、それは一体どういった意味なのか。
インプラントの感染症の原因や、感染したときの症状、対処法などについてご紹介します!
更新日:2021/08/23
■目次
インプラント感染の3大原因
インプラント治療は失った歯を補うことができ、入れ歯に比べて十分に噛めることから注目されている歯科治療です。
インプラント治療では歯茎を切開したり、骨にインプラント体を埋め込むための手術が必要で、術中・術後にインプラントを埋め込んだ部分が細菌に感染し問題が起こる可能性があるのです。
感染するとインプラント周囲炎という、自分自身の歯でいう歯周病のような症状が出るため注意が必要とされています。
では、なぜインプラントが感染し問題が起きてしまうのでしょうか?
原因としては以下の3つに分けられます。
感染原因1:インプラントのケア不足
医師による治療が適切であっても、患者さんが術後の注意を怠ってしまう、ケアが不十分であることによって術後感染による問題を起こす場合があります。
例えば術後に患部を舌や指で触ると、傷口から雑菌が入りやすくなってしまいます。
また、強くうがいをしてしまうなどにより傷口の治りを促す血の塊(血餅)がなくなってしまい傷の治りが遅れ抜糸が先延ばしになること細菌感染による問題を引き起こす可能性が高まります(歯ブラシで患部をこすってしまい刺激を加えてしまうこともリスクが高まります)。
管理ができておらず、雑菌が繁殖した歯ブラシでお口の中を磨いている場合や、毎日の歯磨きが十分でなく常にお口の中に汚れが残っている場合も感染による問題を起こしやすいようです。
抜糸を行いインプラントが安定した後も、自宅での歯磨きや歯科医院でのメンテナンスなどを怠ってしまうと、インプラント治療後の感染による問題が起こる可能性が高くなるのです。
感染原因2:歯科医院の感染対策
残念ながら歯科医院の対策が不十分なことで感染するケースもあります。
インプラント治療は大掛かりな手術ではありませんが、衛生管理されている専用の手術室や個室で行う、器具機材の滅菌消毒を十分に行うなどの対策が必須です。
管理が不十分な機材を使用してしまったり、空気中にほこりや菌が舞っていると感染の原因となるのです。
インプラント治療を行うに際し、オペ室を用意しているなど感染予防対策を徹底している歯科医院を選ぶことで、安心して治療を受けられるでしょう。
感染原因3:患者さんの身体の状態
患者さん自身の免疫力や抵抗力が低下していると術後感染による問題が起こるリスクも高まります。
全身の健康はお口の中と関係がないように思えるかもしれませんが、インプラント治療後の感染による問題には患者さんの健康状態も大きく関係しているのです。
また、上顎の歯の上には「上顎洞(じょうがくどう)」という骨の空洞があり、インプラントを埋め込むことでここの粘膜に細菌が入り炎症を起こすことも。
患者さんの中にはもともと上顎洞に炎症が起こりやすい状態の方もいるのです。
その他、過去に受けた美容整形などが関係して、インプラントの感染による問題を起こすこともあります。
インプラントの感染による症状
まずインプラントが埋め込まれている周囲の粘膜に炎症が起こるケースが多いです(インプラント周囲粘膜炎といいます)。
その後、インプラントを支えている骨が溶ける、膿が出るなどの症状も出てきます(インプラント周囲炎といいます)。
インプラント手術を受けた直後に感染して問題が起こると、インプラントが骨とくっつかず、手術失敗となってしまうことも。
通常の歯周辺に起こる歯周病と比べて進行しやすく、インプラントを抜かなくてはいけないケースもあります。
インプラントの感染による問題を予防するには?
では具体的に、どうしたらいいのでしょうか?
インプラントの感染による問題を防ぐには、歯科医院だけでなく患者さん自身でできるポイントもたくさんあります。
感染予防1:お口の中を清潔にする
お口の中は湿っていて細菌が繁殖しやすい環境であると言われています。
細菌の繁殖を抑え、お口の中を清潔に保つことがインプラントの感染を防ぐ1番のポイントと言えるでしょう。
お口の中は繋がっているため、インプラントの部分だけでなくお口全体を歯ブラシ、フロス、歯間ブラシなどを使ってきれいにしてくださいね。
インプラント手術の後に、歯科医師や歯科衛生士から歯磨きのポイントを教わってみるのもいいかもしれません。
また、歯科医院での定期検診(メンテナンス)を忘れずに受けるようにしましょう。
毎日の歯磨きで落としきれなかった汚れを取り除くことで感染のリスクをぐっと下げることができますよ。
お口の中は日々変化しているため、その時々の適切なセルフケア方法を教わったり、プロにお口の中の変化を確認してもらうことも感染予防には大切です。
また、喫煙はお口の衛生状態を悪くしてしまいますので、禁煙をおすすめします。
どうしても禁煙は無理…という場合は、インプラントの手術直後~抜糸までの間だけでもぐっと我慢してみてください。
喫煙している方は、事前に喫煙していると歯科医師に伝えることも忘れないでくださいね。
糖尿病の方の場合、血糖値が高いと免疫力の低下でインプラントの部位に問題が起きやすくなるので普段の食生活に注意しましょう。
感染予防2:処方された薬を飲み切る
抗生物質などを処方された場合は、最後まできちんと飲み切りましょう。
当たり前のように思えますが、飲み忘れてしまったり途中で飲むのをやめてしまうと細菌感染による問題発生が起こることを防ぐ効果が十分に得られなくなってしまいます。
もし飲み忘れてしまったら、歯科医師や薬剤師に相談しましょう。
たいていは、次の服用のタイミングまで時間があるときは気付いた時に、次の服用のタイミングが近い場合は1回分は諦めて次のタイミングから再開します。
1日1回服用の薬か、2回、3回の服用の薬かなどによっても異なるので、まずは自己判断で飲まずに相談してみてくださいね。
痛み止めに関しては、痛みがない場合は飲まなくても大丈夫です。
感染予防3:衛生管理がされた歯科医院を選ぶ
歯科医院は常日頃から感染対策をしている、と言われていますが、残念ながら感染対策が十分でない歯科医院があるのも事実です。
器具の滅菌や環境の整備が行われいないと、空気に舞っているほこりや汚染されている器具から手術中にインプラントの感染による問題が起こってしまうのです。
インプラント治療を受ける歯科医院を選ぶ時は以下のようなポイントを確認して選んでみてくださいね。
・専用の手術室または周りに患者さんがいない個室で処置が行われるか
・処置を行う手術室や個室はクリーンな環境か
・器具機材の滅菌消毒が十分にされているか
歯科医院は常日頃から感染対策をしていると言われていますが、患者さん自身の目で実際に治療を受ける歯科医院の感染対策を確認することで、より安心して治療をうけられるかもしれませんね。
きちんと感染対策を行っている歯科医院であれば、医院のホームページに感染対策が記載されていたり、医師やスタッフに聞いた時に具体的に行っている対策を教えてくれるはずですよ。
感染予防4:非日常な行動はさける
術後は整体や小顔矯正、スパ、温泉などは避けておきましょう。
整体や小顔矯正は術部を直接触るわけではないですが、顔周りを触る刺激が悪影響になることが。
スパや温泉、サウナなどは複数の人が使用する場のため雑菌の心配があるほか、血行が良くなることでインプラント術部の痛みや炎症へとつながります。
日々のちょっとした楽しみですが、インプラントが安定するまでは我慢したほうがいいかもしれません。
どうしても行きたい!という場合は歯科医師に相談してみてくださいね。
インプラントの感染による問題は、適切な治療とセルフケアをしていれば発生する確率は低いとされています。
インプラント治療を成功させるためにも、患者さん自身でのケアもしっかり行いたいですね。
もしもインプラントが感染して問題が起きてしまったら?
インプラントの感染による問題が起きている場合、症状が進行しやすいことが特徴です。
痛みが治まらない、腫れや出血がある、動揺しているなど比較的強い症状が疑われる場合には、できるだけ早く通院して歯科医師に診断してもらいましょう。
症状が進行してしまうと対処できなくなってしまう(インプラントを除去する)こともあるので、あれ?と思ったらすぐに通院してくださいね。
通院がすぐに難しい場合は、歯科医師に電話で相談して痛みの強さや症状、痛みが出るタイミングなどを詳しく伝えて判断を仰ぎましょう。
痛み止めを飲めば大丈夫、ちょっと我慢すれば大丈夫、で長期間放置してしまうことはNGですよ。
まとめ
インプラントの感染による問題は、術後のセルフケアが不十分であったり、歯科医院の衛生管理が行われていなかったりする場合に起こってしまうものです。
適切な治療とセルフケアを行えば予防でき、感染による問題が起きた場合にも対処法があるため、心配しすぎる必要はありません。
インプラント治療を行うための環境が整備された歯科医院で治療を受け、そしてセルフケアやメンテナンスを頑張ってみましょう。
もしも今インプラント周囲炎かも?と思って記事を読んでいる方は、早いうちであればインプラント周囲炎の治療が受けられるかも。
インプラントを長く使うためにも、早めに歯科医院へ連絡してくださいね。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。
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