インプラントも歯石には要注意!インプラントでも歯磨きが必要なワケ
インプラントは、人工の歯根を顎の骨に埋め込むことによって失った歯を補うことができます。しかし、天然歯と同じように日頃から丁寧にケアをしていないと、インプラントの周囲に炎症が起きて痛みが出るほか、最悪の場合はインプラントが抜け落ちてしまうこともあります。
「インプラントは人工の歯なのに歯磨きが必要?」と思われるかもしれません。インプラント自体は虫歯になりませんが、長く使うためには適切なケアや定期健診が必要なのです。
インプラントのケアを怠るとどのような症状が起きるのか。そして、インプラントを長く使っていくためのポイントをご紹介します。
更新日:2021/12/07
■目次
インプラントにも歯石は付きます
「インプラントは人工的なものなため、虫歯や歯周病にはならないし汚れもつかない」と考えてしまう方もいらっしゃるようです。
たしかに、インプラントは人工歯なので虫歯にはなりません。しかし、インプラントにも、歯垢や歯石が付着します。
付着した歯垢や歯石によってインプラントの周りの骨や歯茎に歯周病に近い症状が起こります。それが「インプラント周囲炎」と呼ばれるものです。
インプラントにたくさんの歯石が付着してしまうと、スケーラーなどで取り除かなければならなくなります。その際、インプラント本体に小さな細かい傷がついて今うことがあります。細かい傷が付くと、細菌が付着しやすくなり、再び歯石が付着しやすい環境になってしまうのです。そのため、歯垢や歯石が付かないよう、常に清潔に保つ必要があるのです。
インプラントのケアをサボってしまうと…
インプラントのケアを怠ってしまうと、上記で紹介したように「インプラント周囲炎」が起こるかもしれません。インプラント周囲炎は、インプラントや周囲の組織(歯茎や歯槽骨)が細菌により炎症が起こるもので「インプラントの歯周病」とも言われています。
インプラント周囲炎は歯周病と同様、細菌が増えると歯肉などの粘膜に炎症を起こします。インプラント周囲炎が進行すると、歯肉から出血が見られるようになったり、膿が出たりするようになります。
インプラントと歯肉の間の溝が深くなって歯肉が退縮し、さらに進行するとインプラントを支えている骨が溶け、インプラントがグラグラと動揺します。最悪の場合はインプラントが抜け落ちてしまう可能性があります。
インプラント周囲炎が進行してインプラントが抜け落ちた場合は骨が大きく溶けてしまっているため、再度インプラントを埋入することが難しくなることもあります。
入れ歯やインプラントを装着している高齢者や障害者の場合、インプラント周囲に歯垢や歯石が付着していると、誤嚥性肺炎につながるおそれもあるので注意が必要です。
しかし介護が必要な方のインプラントケアは歯科医院への通院も難しく、介護者によるケアにも限界があります。義歯の周囲のケアが比較的容易になる、磁石によって入れ歯を着脱できるマグネットデンチャーなどの検討もしてみるとよいでしょう。
インプラントのセルフケア方法
ここでは、患者さん自身のお手入れの方法についてご紹介します。
基本的には、天然歯を磨くのと同じ要領になります。歯ブラシを細かく動かし、歯と歯肉の境目や歯間なども丁寧に磨きましょう。
手で動かして磨く歯ブラシのほかに、下記のようなセルフケアグッズを使用することもおすすめです。
電動歯ブラシ
電動歯ブラシは3種類に分けられます。
モーターで動く電動歯ブラシは、手で動かす歯ブラシに比べ細かい振動で磨くことができるため高い清掃効果が期待できます。
また、音波ブラシや超音波歯ブラシは電動歯ブラシ以上に振動数が高く、ブラシの毛先が触れていない部分の汚れを落とす効果があるとされており、インプラント周りの細かな部分まで清掃することができます。
電動歯ブラシによってはインプラントに傷を付けてしまう恐れがあるため使用を推奨していない商品もありますので、購入時に確認しましょう。
タフトブラシ
歯間や歯と歯肉の間、奥歯の裏面、矯正装着の周囲など、磨きにくい細かいところに届くヘッドの小さな1本磨き用の歯ブラシです。インプラントの根元などを磨くときにも有効です。
歯間ブラシ、デンタルフロス
インプラントと両隣の歯の間には汚れがたまりやすくなります。隙間が狭い場合は糸状のデンタルフロス、隙間が広い場合は歯間ブラシが使いやすいでしょう。
デンタルフロスは場合によっては人工歯が外れてしまう原因となりますので、指に巻き付けて使用するタイプのフロスを横から引き抜くようにして使用しましょう。
インプラントだけを重点的に磨いたとしても、ほかの歯に磨き残しがあるとそこから細菌が感染する可能性もあります。歯全体をしっかり磨いて清潔を保ちましょう。
介護者によるケア
被介護者が自分自身で磨ける部分については、リハビリも兼ねてご自身で磨いてもらうようにしましょう。電動歯ブラシの使用など、できる限り簡易に磨ける方法を選択するとよいでしょう。
磨き残しがある場合は、インプラントそのものは歯間ブラシやタフトブラシなど刺激が小さいものを使って磨きます。マグネットデンチャーを装着している場合は、外して歯垢や食べカスなどの汚れを取り除きます。
優しくきれいにするため、ガーゼやスポンジブラシなどを使用するのもおすすめです。かかりつけの歯医者さんがある場合は、被介護者に合わせたケア方法の指導を受け、継続することが大切です。
歯医者さんでの定期検診(プロフェッショナルケア)
先ほど紹介したのが、ご自身でできる「セルフケア」となりますが、歯医者さんでの「プロフェッショナルケア」もご紹介します。
歯医者さんでは、歯科専用の器具や薬剤などを使ってインプラントやその周囲をきれいにすることができます。歯をお掃除してくれるのも歯科医師や歯科衛生士といったプロフェッショナルなので、インプラントだけでなく口内の隅々までクリーニングしてくれます。歯ブラシでは届かないところの汚れも除去するので、口内がスッキリ感じられるのではないでしょうか。
歯医者さんにはインプラントが気になった時や違和感を感じてからではなく、定期的に通うことをおすすめします。定期健診で歯医者さんに診てもらうと、歯肉の状態やグラつき、噛み合わせなどを細かく確認してくれます。また、セルフケアの方法も指導してくれるので、定期健診はインプラントを長く使うのにもっとも効果的な方法といえるでしょう。
引っ越しなどにより通院できなくなったら、必ず相談しましょう
かかりつけの歯医者さんで定期健診を受けていても、転勤や引っ越し、または介護などご家庭の関係で通院できなくなることもありえます。その場合は必ず担当の歯科医師に報告・相談しましょう。
転勤や引っ越しなどで住まいが移る場合は、歯科医院を紹介してもらえることがあります。また、転院先でスムーズに引き継ぎができるよう、紹介状を提供してくれる場合もあります。
転居先でも信頼できる歯医者さんで通院できるよう、インターネットや近隣の話などで歯医者さんの情報を集め、紹介状をもって相談に行きましょう。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Natureに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。
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