「大学病院・公的医療機関と歯科医院のパートナーシップ」で患者様により良い治療を

今回は、「先端医療センター病院 歯科口腔外科」客員部長であり、大阪歯科大学口腔インプラント科専任教授である馬場俊輔先生に、
「大学病院・公的医療機関で受けるインプラント治療、歯科医院との連携体制」について、お話を伺いました。

大学病院・公的医療機関で受けるインプラント治療とは

大阪歯科大学口腔インプラント科専任教授馬場俊輔先生
馬場 俊輔 先生
大阪歯科大学口腔インプラント科専任教授

――大学病院・公的医療機関で受けるインプラント治療の特長を教えてください。
「大学病院や公的医療機関では、様々な症例の手術経験がある口腔外科医がいます。また、顎の骨の質や神経の位置を正確に把握することができるCTスキャンなど、検査や診断をするために必要な設備が整っていますので、インプラント治療のために顎の骨を増やす手術が必要なケースでも、適切な治療を行うことができます。さらに、麻酔医や内科医などの他科と連携を取りながら治療を行うことも可能ですので、糖尿病などの全身疾患をお持ちの方でも、しっかりと全身状態を管理しながら手術を行うことができます。」
――私達にとって身近なのは、近くの歯科医院なのですが、大学病院や公的医療機関は、どのような場合に利用したら良いのでしょうか。
「一つは、骨を増やす処置などの難しい手術が必要と判断された場合です。もう一つは、患者様に『インプラントの手術は大学病院・公的医療機関で受けたいが、治療後のメインテンスは近くの歯科医院で診てもらいたい』というような要望がある場合です。このような場合は、その旨を歯科医院の先生にお伝えください。インプラント治療における大学病院と歯科医院の役割分担についてご存知の先生であれば、大学病院や公的医療機関の口腔外科を紹介して下さいます。」
――「治療後のメインテナンスは近くの歯科医院で受けたい」という患者様は多いのではないでしょうか。
「そうですね。メインテナンスをお近くの歯科医院で受けたいとおっしゃる患者様のお気持ちはよくわかります。メインテナンスは、治療が終わった後から定期的に通うことになりますが、大学病院や公的医療機関では、最小限の歯科衛生士の数で診療にあたっておりますので、メインテナンスをするだけでも、かなりのお時間をお待たせしてしまうことが少なくありません。ここは大学病院や公的医療機関の課題でもあります。この待ち時間がご負担となり、メインテナンスを継続することができなくなってはよくありませんので、これを苦痛と感じる方は、通いやすいお近くの歯科医院でメインテナンスを受けるという選択が良いかもしれませんね。長期的にインプラントを使い続けるためには、適切な選択だと考えます。」

大学病院・公的医療機関と歯科医院のパートナーシップ

――現在、大学病院・公的医療機関と歯科医院は、連携されているのでしょうか。
「一部は行っていますが、まだまだこれから体制を整えていかなければなりません。インプラント治療は、インプラントの埋め入れる手術を行う『口腔外科』と被せ物や噛み合わせの調整を行う『補綴[ ほてつ ]』、インプラント治療前と治療後の口腔内の健康管理をする『歯周治療』の3つの分野にまたがった治療です。インプラント治療に関わる全ての治療に精通されている先生も多くいますが、いずれかの分野において特出して経験や知識が豊富な先生もいます。そういった歯科医院と、お互いの得意分野を補って治療を進めることで、より患者様の満足度の高いインプラント治療を行っていきたいと考えております。」
――大学病院や公的医療機関が、歯科医院からの患者様の受け入れを行っていることについては、歯科医院へ案内されているのでしょうか。
「私どもの病院では、インプラント治療を行なっている歯科医院に向けて日頃からアナウンスをしております。先程も申し上げましたとおり、一部の歯科医院とは連携して外科手術の依頼を受けています。また、大阪では大学の診療科と地域の歯科医師会の連携を模索し始めました。しかし、まだまだ浸透していないのが現状です。今後、連携を取りやすい体制をさらに強化していき、患者様により適したインプラント治療をご提供するだけでなく、様々な症例の方でも安全な治療を受けられる場所をさらに増やしていくことを目指しております。」
――大学病院・公的医療機関と歯科医院の連携においては課題もあるようですが、今後取り組むべきことについて先生のお考えを教えて下さい。
「実は、インプラントの治療後に不具合を感じている方や、痛み・腫れ、インプラントのグラつきなどの問題を抱えている方が、治療を受けた医院へ相談に行くのではなく、大学病院や公的医療機関に来院され、再治療を希望されるということが少なくありません。ですから、大学病院や公的医療機関では、歯科医院と比較するとインプラント治療後の患者様の口腔内を数多く診ていると思います。こういった経験から、現実にインプラント治療後の問題が数多く起きているということを、大学病院・公的医療機関側が、より多くの先生にご理解いただくために様々な場において現場の状況を発信する必要があると感じております。もちろん大学病院・公的医療機関でなくても外科手術や全身管理も安全に行われている歯科医院もたくさんありますが、大学病院・公的医療機関と連携し役割分担をすることで、より安全な治療を提供できる場合もあるということを、ひとつの情報として伝えていきたいと思っています。」

患者様へのアドバイス ―後悔しないインプラント治療を受けるために―

――最後に、インプラント治療をご検討の患者様へ、アドバイスをお願いいたします。
「一つは、インプラントの治療前、治療中、治療後でそれぞれどのような悩みや疑問を持つことになるのかを、インターネットや書籍などを活用して把握しておくと良いと思います。そうすると、疑問や不安をすぐに歯科医師に投げかけることができます。もちろん私たち歯科医師も患者様の不安を解消できるようにできる限りの説明をいたしますが、限られている診療時間のなかで、患者様お一人おひとりがもつ不安や疑問に全て応える説明ができるとは残念ながら言いきれません。ですので、治療を受ける前に事前に情報を得ておくことで、自分は何が不安か、何に疑問を持っているかということをはっきりさせておくことは大切です。」
「また、分からないことや不安に思うことがあっても、歯科医師を目の前にすると話しにくいという患者様も多いと思いますので、疑問などを事前に紙に書いて、歯科医師に投げかけると良いと思います。重要なのは、疑問や不安をそのままにしておかないことです。」
「そしてもう一つ、大切なことがあります。インプラント治療は、『診査・診断』、『外科手術』、『人工の歯を被せる処置』、『治療完了後のメインテナンス』と、長期間にわたる治療です。この中でも、治療後のメインテナンスはインプラントを長く使い続ける上で非常に重要です。歯科医師とは長いお付き合いが必要ですので、医院を選択される際には、治療の診査・診断だけでなく治療後のメインテナンスまできちんと説明があるかどうか、また、一生涯をかけて自分が治療したインプラントに責任を持って対応してくださる先生であるかどうかを見極められることをおすすめいたします。インプラント治療は高額な治療費を払って受ける治療です。これらをしっかりと理解したうえで、じっくりご検討いただければと思います。」
馬場先生を取材して
インタビュー中、「大学病院・公的医療機関には、インプラント治療によるトラブルを抱えた患者様が再治療を希望して来院される方も少なからずいらっしゃるので、このような現場の状況における正しい情報を発信していく必要がある」、とお話しされたことが印象的でした。
インプラントネットでは、今後もインプラントの適切な情報の発信に努めて参りたいと思います。(了)

関連コンテンツ

このページの先頭へ