インプラント治療でのCT診断とパノラマレントゲン診断との違い

インプラント治療にはCTやパノラマレントゲンなどの、術前検査が大切になってきます。インプラント治療する部位や埋め入れる本数によってはCT診断をしたほうが、より安全な治療ができることがあります。

更新日:2019/09/30

■目次

  1. インプラント埋入位置の原則
  2. パノラマレントゲン診断
  3. 従来のパノラマレントゲンでの診断 -2次元での診断-
  4. インプラント2本埋入の患者さんのパノラマレントゲン
  5. CT診断
  6. CT画像診断 -3次元での診断- (上のパノラマと同じ患者さんのもの)
  7. インプラント2本埋入手術のCT画像上でのシミュレーション(インプラントの直径や長さ、埋入方向の決定がCT画像上で可能となる)
  8. 下顎骨と上顎骨の頬舌的断面像(CT画像)

インプラント埋入位置の原則

下顎の額骨模型

インプラントは原則として骨の中に確実に埋まっていなければなりません。そのため、まずインプラント治療する際には埋入する位置を正確に見ることが必要です。
(注;実際の現場では、骨が足りない場合は骨移植の検討や、補綴〔かぶせ〕の位置も考慮しながら埋入位置は決めます。)

a : 骨の骨幅・・・インプラントの直径(太さ)を決定
b : 骨の高さ・・・インプラントの長さ決定(下顎では下歯槽神経〔下顎管〕まで、上顎骨では上顎洞底までの距離)
c : 骨の前後の長さ・・・隣の歯もしくは隣のインプラントまでの距離をみる際に重要。

パノラマレントゲン診断

従来のパノラマレントゲンでの診断 -2次元での診断-

欠損部の上の丸いものは直径5ミリの鉄球です。(マジックで書いた線は、傷つけてはいけない下歯槽神経〔下顎管〕です)

注:パノラマレントゲンは実際の患者さんのお口の中の骨よりも少し拡大されて写っています。ですから、パノラマレントゲンでbの患者さんの実際の骨の高さ を計測する為には拡大率を読み取らなければいけません。

インプラント2本埋入の患者さんのパノラマレントゲン

インプラント2本埋入の患者さんのパノラマレントゲン

これでb のインプラントの長さはだいたい決定出来ます。(注;顎骨形態に問題が無いと仮定した場合。)

欠損部の丸い直径5ミリボールで縦方向の拡大率を読み取り神経までの距離を診断します。例えば、パノラマ上の丸いボールがパノラマ画像上で6ミリだったとしましょう。だとすれば実際のボールは5ミリですから拡大率は6÷5=1.2倍となります。そしてもし仮に、パノラマ上で骨の一番高い所(骨頂)から神経までが12ミリだったとすれば、12÷1.2=10となりパノラマ画像上では12ミリでも実際の骨頂から神経までの長さは10ミリと診断するわけです。そして、使用するインプラントの長さは、骨頂から下歯槽神経〔下顎管〕までの長さよりも、少し安全域をとって短いものを選択します。

しかしながら、a の骨幅はわかりません。(口腔内で骨幅を測る、はさみ状の計測器で測ることも出来ますが、骨の上には歯ぐきがあるため測る位置が不正確になります。また、ボーンマッピング法といって、針やプローブのようなもので、直接、欠損部の歯ぐきを何箇所か貫通させて歯ぐきの厚みを計測し、その厚みを模型上に印記する事で、歯ぐきの下の骨の幅や形態を診断する方法もありますが、これも、すべての部位までは計測が出来ないですし、また、歯ぐきよりもかなり深い所〔下方〕の計測および診断は出来ません。)

またc の骨の前後の長さもわかりません。(パノラマレントゲンは縦方向の拡大率はある程度正確ですが、横方向の拡大率は安定しないためわかりません。)

パノラマレントゲンは二次元でしかわかりませんから、骨があるように見えている所でも実際に歯ぐきを開いてみると骨が陥没していたり欠損していたりすることがあります。

また、解剖学的な全体の顎骨形態もパノラマレントゲンでは診断出来ません

上記の様な下顎の臼歯部領域の場合、確かに、b の骨頂から神経までの直線距離(長さ)はだいたい分かるのですが、実際には、骨頂から下歯槽神経(下歯槽神経より前方も、骨頂から下方向)にいたるまでの顎骨形態には「顎下腺窩」や「舌下腺窩」という、個人差はあるものの、唾液腺を抱える骨のくぼみが舌側にあり、このくぼみを無視してドリルで骨を突き破ると、顎骨の直下の太い動脈(オトガイ下動脈や舌下動脈)や顔面静脈の枝(オトガイ下静脈と呼ぶ場合もある)、舌神経等を損傷する可能性があり、特に太い動脈を損傷した場合は最悪、大量出血から血腫がおこり窒息死に至る危険性があるため、CTを用いて各所の長さと共に顎骨形態も確認して、インプラントの直径(太さ)と長さ、埋入方向を決定する必要があります。ちなみに、「顎下腺窩」や「舌下腺窩」などの舌側のくぼみの上部や周囲には、顎舌骨筋やオトガイ舌骨筋などの筋肉組織が豊富で触診での形態の確認は困難です。

また、上顎骨の場合も、治療する際に問題となる「上顎洞」という空洞があり、これはパノラマレントゲンだと白く曇って写り、骨頂から上顎洞(底)までの骨の厚み(長さ、距離)が実際よりも厚く(長く)見えたり、上顎洞の形や内部の状態もパノラマレントゲンのみでは確認する事が出来ません。

そのため、上下顎どちらも、3次元的にわかるCTが有効になってきます。

CT診断

CT画像診断 -3次元での診断- (上のパノラマと同じ患者さんのもの)

注:CTは拡大率は考えなくてよく、abc の各々の長さは自動的に実寸での計測が可能です。
(また、顎骨形態を考慮しながら、各所の任意の部位の長さ〔距離〕の計測も可能です。)

インプラント2本埋入手術のCT画像上でのシミュレーション(インプラントの直径や長さ、埋入方向の決定がCT画像上で可能となる)

インプラント2本埋入手術のCT画像上でのシミュレーション

この様なCT画像では3次元的に骨の状態がわかります。すなわち、abc すべてがかなり精度の高い長さ(より実寸)がわかりますし、顎骨形態まで詳細にわかります。また、見落としがちな下歯槽神経のイレギュラーな走行や上顎骨の上顎洞の形や内部の状態も手術前につかめ、CT画像上にてバーチャルインプラント埋入手術シミュレーションを行う事も出来ます。

そのため、骨移植などの骨造成法を併用する場合であれば、材料をあらかじめどの程度準備すればよいか(必要な移植骨量の計算も解析ソフトによっては可能)なども予測できるため、スムーズに手術を進める事ができ、手術時間の短縮にもつながります。

下顎骨と上顎骨の頬舌的断面像(CT画像)

下顎骨と上顎骨の頬舌的断面像(CT画像)

注:ソケットリフト法の治療説明

また、手術時間が短くなれば痛みも出にくくなります。

CTには歯科用CT、医科用CTがあり、それぞれ両者を比べると多少違いがあります(歯科用CTは画像は鮮明なものが多いが骨の硬さ[骨密度]の診断は総じて不正確、医科用CTは画像は少し粗いが骨の硬さ[骨密度]の診断は優れている、被ばく量は両者共に機種や撮影条件に左右されどちらとも言えない、等)のでどちらが一概に良いとは断定できませんが、どちらであれインプラント手術をする際には、3次元的に骨の状態が全体の顎骨形態から神経の走行、上顎洞の形も含めて総合的に詳細にわかり、長さ(距離)も正確にはかれますので、安全なインプラント治療の必要条件は満たしており、非常に有効な診断法であると思われます。

記事提供

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記事監修

歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Natureに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。