喫煙者もインプラント治療はできる?リスクや喫煙を止める方法も解説
「インプラント治療に興味を持っているけど、喫煙者は禁煙する必要がある。喫煙者は治療を受けられないの?」そんな疑問をお持ちの方も、いらっしゃるのではないでしょうか。
喫煙は身体に悪影響を与え、インプラント治療においてもデメリットがあります。今回、喫煙者がインプラント治療を受ける際に生じる懸念材料の具体例や、禁煙を成功させるための6つのポイントについて、詳しく解説します。
更新日:2024/08/12
■目次
喫煙はインプラント治療が失敗する確率を高めてしまう
特定非営利活動法人日本歯周病学会 禁煙推進委員会が監修した論文※1によると、インプラント治療全体の失敗率が2%だったのに対し、喫煙者の失敗率は4%と倍になります。また、合併症の発生率も、非喫煙者の31%に対して喫煙者は46%と上昇しており、統計学的にも有意に差がある結果となっています。
さらに、日本歯周病学会会員※2によると、「インプラント治療の前に禁煙指導を実施しているか」という設問に対して、50%の回答者が「はい」を選択していました。すなわち、インプラント治療に携わる人の多くが、治療の前に禁煙指導を行う必要性を認識していることになります。
加えて、社団法人 日本歯科医師会が公開したデータ※3によると、インプラントの処置を行う1週間前から8カ月後にわたって禁煙を続けた場合、インプラント治療に伴う問題が発生する確率を低下させます。禁煙は治療後のインプラントと骨の生着にも好影響を与えるため、禁煙のメリットは大きいと言えます。
参考 ※1:特定非営利活動法人日本歯周病学会
参考 ※2:日本歯周病学会会員
参考 ※3:社団法人 日本歯科医師会
インプラント治療における喫煙のリスク・悪影響
喫煙の際に身体に取り込まれる物質の中には、インプラント治療に対して大きな悪影響を及ぼすものがあります。喫煙によるリスクとしては、以下の3つです。
インプラントと骨が結合しにくくなる
タバコに含まれるニコチンは血行障害(毛細血管の収縮)を引き起こすため、血管における酸素や栄養の運搬を妨げます。歯周組織が弱ると、インプラントを埋め込んだ後の骨の治癒が遅れることにつながり、インプラントと骨の結合を妨げることにもなります。
インプラント周囲炎になりやすくなる
インプラント周囲炎とは、インプラントの周辺組織に炎症が生じている状態を指します。お口の中の衛生状態の悪化や糖尿病などが原因とされていますが、喫煙もインプラント周囲炎のリスクを高める要因の一つであると考えられています。
唾液が減る
喫煙により自律神経が乱れると唾液の分泌を抑制するため、お口の中が乾燥しやすくなり、歯垢や歯石がお口の中に溜まりやすくなるため、歯周病のリスクが上昇します。さらに、歯垢の中の歯周病原菌はインプラント周囲炎の原因菌にもなるため、喫煙によってお口の中の衛生状態は大きな影響を受けます。
インプラント治療後なら喫煙しても大丈夫?
喫煙は、インプラント治療の最中だけではなく、治療後にも大きな影響を与えます。インプラント周囲炎などのリスクをできる限り軽減するためにも、治療が終わったからといって決して安心することなく、メンテナンス期間に入ってからも禁煙を継続していく必要があります。
インプラント治療に向けて喫煙を止める方法
インプラント治療を受ける際には、禁煙を成功させることが必須です。禁煙を成功させるために効果的な6つのアプローチについて、具体的に紹介します。
禁煙開始日を設定する
最初に禁煙開始日を設定することは禁煙を成功させるために有効な手段の一つです。何かの記念日や自分の誕生日、1がつく日といった覚えやすい日をスタートにし、カレンダーに印をつけたりしていくことによって、禁煙の持続で自己肯定感が高まり、禁煙のモチベーションも維持することにもつながります。
周囲に禁煙宣言をする
周囲の人に対して「禁煙する」という意志を宣言することも、禁煙を成功させるために効果的です。職場の同僚に喫煙室に誘われたりすることを防げるだけでなく、禁煙が辛くなった時に励ましや応援の言葉をもらうことにより、喫煙の誘惑に打ち勝つことができるかもしれません。
離脱症状が出た場合の対処法を考えておく
禁煙の際に生じるさまざまな禁断症状を、「離脱症状」と呼びます。禁煙を始めてから数日間はタバコを求める感情が1日に数回ほど発生するとされていますが、吸いたいという欲求は長くとも3~5分程度しか続きません。そのため、状況に応じて適切な行動を行うことによって、欲求を受け流して禁煙を継続することができるようになります。
具体的な行動ですが、イライラして落ち着かなくなったり、集中力が落ちたり、頭痛が発生した際には、いったん深呼吸をしてみる、糖分の少ないガムを噛んだりするなどです。
喫煙の代わりになる行動を考えておく
タバコを吸いたくなりがちなタイミングに備えて、喫煙の代わりとなる行動を用意しておくことも、禁煙を継続するうえでは重要です。例えば、朝起きてすぐのタイミングでタバコが吸いたくなったら即座に顔を洗う、食事の後に吸いたくなったら歯を磨くといったように、特定の行動を紐づけることによって欲求を受け流すことが可能になります。
さらに、コーヒーと一緒にタバコが欲しくなったら代わりに紅茶を飲んでみたり、アルコールと一緒にタバコを吸いたいという欲求が生じたら冷たい水を飲んだりと、摂取するものを変えることも効果的です。また、通勤中の車の中で一服したくなったら、大きな声で歌ったり、何度か深呼吸を挟んだりすることによって、気を紛らわせてみるとよいでしょう。
禁煙補助薬を利用する
自分の力だけでは禁煙を維持するのが難しい場合は、禁煙補助薬を使ってみるのも一つの手段です。薬局で購入できるニコチンパッチやニコチンガムは、ニコチンが切れた際の離脱症状を抑制してくれるため、禁煙を続ける上で非常に有用です。それでも禁断症状が抑えられない場合は医療機関を受診して、専門医が適切だと判断する薬を処方してもらいましょう。
参考:厚生労働省
禁煙治療用アプリを活用する
禁煙治療用アプリは、医療機関において処方される、禁煙をサポートするためのアプリです。呼吸に含まれる一酸化炭素の濃度を計測できるため、患者さん自身と担当医の双方が現在の状況を確認できます。また、アプリを通じて禁煙に関する知識や、ストレスが生じた際の対策法などを学べるため、患者さんの禁煙生活を支えるための心強い存在となります。
まとめ
喫煙により、インプラントと骨の結合を妨げるインプラント周囲炎の発症リスクを高めます。喫煙習慣がある患者さんの場合、インプラント治療の失敗リスクが非喫煙者に比べて高くなると考えられています。
インプラント治療を受ける際には、禁煙を成功させることが必須となります。また、禁煙は治療期間中だけでなく、治療が終了した後も継続していく必要があります。インプラントを埋め入れる際のリスクを少しでも軽減するためにも、禁煙を成功させたうえで、安心して治療を受けられるようにしていきましょう。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。
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