■目次
インプラント学会とは
医学や歯学の分野には学会が多数存在します。インプラントに関しても、国際インプラント学会(ICOI)をはじめとして、いろいろな学会が活動しています。各学会は「インプラント治療を希望する患者さんによりよい治療を提供するため」などの目的により設立されています。
インプラントに関する似たような学会がいくつも存在するのは、それぞれ成り立ちが異なり目的や活動内容に違いがあるためです。
インプラント学会の種類
それでは具体的に、日本国内における代表的なインプラント学会を紹介します。また、学会ごとに取得できる資格も解説します。学会によって受験資格や審査方法なが異なるため、たとえば同じ「指導医」という名称であっても別の資格です。
国際インプラント学会(ICOI)
国際インプラント学会(ICOI)は、1972年に設立され、アメリカのニュージャージー州に本部を置く世界規模のインプラント学術団体です。患者さんによりよい歯科治療を提供することを目的とし、会員である歯科医師にインプラントの継続教育を提供する重要な機関です。
取得できる資格とは?
取得できる資格を具体的に見ていきましょう。
・ICOI Diplomate(指導医)
ICOI Diplomate(指導医)とは、国際インプラント学会(ICOI)が認定している最上位の資格です。豊富な臨床経験と研鑽を積んだ歯科医師が取得できます。資格取得のためには、インプラント治療の外科処置や補綴処置を60症例行っていること、などの条件を満たす必要があります。
インプラント選択に多様性を有する症例や、骨造成症例などの困難症例も一定数含まなければならず、ICOI学術大会への参加や研修の受講も必須です。
・ICOI Fellowship(認定医)
ICOI Fellowship(認定医)とは、インプラント治療に関する一定の知識・技術があり、適切な診断と治療を行なえる歯科医師および歯科技工士を認定する資格です。資格取得の条件としては、インプラント治療を20症例以上行っていること(外科処置・補綴処置の両方を行なっている場合は10症例)、ICOI学術大会に参加していること、ICOIによる研修を受講していること、などがあります。
・IPS Mastership(マスターシップ)
IPS Mastership(マスターシップ)とは、主に補綴治療を行なう歯科医師および歯科技工士のための資格です。補綴物を装着後1年以上経過したインプラント症例を40症例示す必要があるほか、ICOI学術大会への参加や、100時間以上の研修受講も求められるなど、ICOI認定医よりも高度な条件が設定されています。
国際口腔インプラント学会(ISOI)
国際口腔インプラント学会(ISOI)は、歯科医療の発展に寄与することを目的として活動を行なっている学会です。ドイツを本拠地とするインプラント学会「DGZI」の日本支部でもあります。
取得できる資格とは?
・Master program(DGZIドイツ本部認定)
DGZIドイツ本部が認定する最高ランクの資格です。Oral Implantology Specialistの資格取得者で、DGZIの受験条件を満たし、ISOIの推薦を受けた場合に受験資格を得られます。
・Oral Implantology Specialist(DGZIドイツ本部認定)
DGZIドイツ本部が認定する難関資格です。臨床例400症例以上、Expert Implantology取得者、ISOIによる推薦などの条件を満たす必要があります。
・Expert Implantology(DGZIドイツ本部認定)
DGZIドイツ本部が認定する資格で、Authority of Implantologyの上位資格として知られています。臨床例100症例以上、Authority of Implantology取得者、ISOIによる推薦などの条件を満たす必要があります。
・Authority of Implantology(ISOI及びDGZI日本支部認定)
「DGZI Japan 認定専門医」ともよばれる資格です。ISOI会員であること、教育講演を受講していること、Clinical Oral Implantology取得者でハンズオンセミナーまたは教育講演を4回受講していることが、受験資格として定められています。症例などを提出し、筆記試験および口頭試問に合格すると資格取得となります。
・Clinical Oral Implantology(ISOI及びDGZI日本支部認定)
「DGZI Japan 認定医」ともよばれる資格です。ISOI会員であること、教育講演を受講していることが受験資格として定められています。症例などを提出し、筆記試験に合格すると資格取得となります。
日本口腔インプラント学会(JSOI)
日本口腔インプラント学会(JSOI)は、日本国内で最大の規模を誇るインプラント学会です。インプラント治療の質の向上による日本国民の健康増進を目的として活動しています。具体的には、日々の研究をはじめ、学術大会の開催や治療ガイドラインの発行、歯科医師の育成・認定などを行なっています。
取得できる資格
・口腔インプラント指導医
正会員歴10年以上で、インプラント治療を熟知して指導的な知識と技術をもっている歯科医師を認定する資格です。専門医教育講座の受講や論文の発表などの条件を満たしたうえで、指導医試験に合格した場合に資格を取得できます。
・口腔インプラント専門医
正会員歴5年以上で、インプラント治療の知識と技術をもっている歯科医師を認定する資格です。専門医教育講座の受講や論文の発表などの条件を満たしたうえで、専門医試験に合格した場合に資格を取得できます。
・JSOI専修医
正会員歴2年以上で、インプラント治療の知識と技術をもっている歯科医師を認定する資格です。認定講習会の受講などの条件を満たしたうえで申請を行ない、学会から認定を受ける必要があります。
・ケースプレゼンテーション試験
会員歴2年以上で、学会の研修施設所属歴があり、講習会で研修を受講した場合に得られる資格です。
日本顎顔面インプラント学会(JAMFI)
日本顎顔面インプラント学会(JAMFI)は、1993年に日本顎顔面臨床生体材料研究会として設立された学会です。1999年に現在の名称となりました。
口腔顎顔面領域のインプラントに関する研究を推進し、正しいインプラントの知識と良質なインプラント治療の普及を図り、日本の学術の発展と国民の健康増進に寄与することを目的として活動を行っています。
取得できる資格
・専門医
インプラント治療とそれに関連する口腔医療の知識と技術をもつ歯科医師を認定する資格です。会員歴5年以上で、定められた研修実績・診療実績・論文業績などを満たす場合に、受験資格を得られます。申請書類と試験による審査に合格した場合に資格を取得できます。
・指導医
専門医の指導や、インプラントに関する診療・教育・研究の指導を行なえる歯科医師を認定する資格です。会員歴10年以上で、定められた研修実績・診療実績・論文業績などを満たす場合に、受験資格を得られます。申請書類による審査に合格した場合に資格を取得できます。
インプラント学会に加入している歯科医師を選ぶ2つのメリット
歯科医師がインプラント学会に加入していると、患者さんとしては以下のようなメリットを得られます。
知識や技術が治療に反映されやすい
歯科医師免許には更新制度がありません。極端な話、国家試験に合格した後は、勉強をしなくても歯科医師としていつまでも治療を行なえるのです。ただし、新しい知識や技術の習得に努めなければ、歯学の進歩についていくことはできません。
こうしたなか、インプラント学会に加入している歯科医師には、学術大会や学会誌など知見を深める機会が豊富に用意されているため、新しい知識や技術が治療に反映されやすいといえるでしょう。
高水準の治療を受けられる可能性がある
インプラント学会に加入して、認定医や専門医といった認定資格を取得するには、一定の条件をクリアしなければなりません。必要な症例などが細かく定められていて、誰でも簡単に取得できるわけではないのです。
そのため、取得していない歯科医師に比べて、高水準の治療を受けられる可能性があります。
学会所属はあくまでも目安のひとつ
インプラント学会の認定医や専門医として認定されていることは、一定の知識や技術をもつ証明になります。しかしながら、丁寧に説明を行なってくれる、検査・治療の設備が充実している、といったことも歯科医師選びにおいては重要です。インプラント学会から認定を受けているから良い歯科医師である、とは一概には言えないため、あくまでも目安の一つとして考えましょう。
まとめ
代表的なインプラント学会には、国際インプラント学会、国際口腔インプラント学会、日本口腔インプラント学会などがあります。これらの学会は独自に認定医や専門医などの認定資格を設けていて、資格取得のためにはさまざまな条件をクリアする必要があるのです。
そのため、インプラント学会の認定を受けている歯科医師は、一定の知識や技術をもつことが保証されます。だからといって良い歯科医師かどうかは別です。インプラント学会への加入有無だけで判断せずに、実際にカウンセリングを受けてみるなどして、信頼できる歯科医師かどうかをご自身で判断するようにしましょう。
この記事で、インプラント治療の歯医者選びに困っているあなたの疑問・不安が、少しでも解消されたら幸いです。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開