インプラント治療の"光"、光機能化技術でより安全で選択肢の拡がる治療へ
歯科インプラントと骨の結合力をより高める技術開発に成功し、歯科で権威のある賞を数多く受賞されているUCLA(カリフォルニア大学ロサンジェルス校)の小川隆広教授。今後、世界のインプラント治療において標準化が期待されている「光機能化技術」を開発し、歯科業界において今最も注目を集めている方です。
インプラントネットでは、このインプラント治療を新しい時代へと導く技術、「光機能化技術」がもたらすメリットや、今後の展望について小川教授にインタビューをしました。
インプラントの最新技術―”光機能化技術”
インプラントも歳をとる。それを何とか避けたい。それが出発点。
――UCLA 小川 隆広 教授 (終身教授位)にまず概要を聞きました。
「難しいことはさておき、光機能化の技術は一般の方が見ても一目瞭然なので、まずはこのビデオをご覧ください。これは、光機能化をグローバルに紹介するビデオです。英語の専門用語がでてきますが、現在、普通に使われているインプラントが左側、そして、光機能化技術を施したインプラントが右側に対比されて出てきます。歯科関連の方でなくとも、この大きな違いを一目でおわかりいただけると思います。」
「インプラント治療の成功のためには、チタン製のインプラントが、顎の骨と強固に結合することが必要です。しかし、現在のインプラントの表面には、チタンの上に炭素が多く付着していて、この炭素が、チタンと骨の接着を不完全なものにしていることが明らかになったのです。そして、この炭素の付着は、インプラントが製造されてからの時間経過に応じて、増加していくので、インプラントの骨との結合能力は、インプラントの年齢によって低下していくことになるのです。この結合能力の低下を『チタンのエイジング(老化)』といいます。光機能化は、この本来予期していなかった炭素を取り除き、インプラントを本来あるべき姿にもどすという、まったく新しい技術なのです。」
「先ほどのビデオでご覧いただけたように、通常使用されているインプラントは老化しています。つまり、炭素が多く付着しているため、水をはじく状態、水に触れても水がなじまない状態(疎水性)となっています。炭素が付着していることに加えて、疎水性であるために、骨を結合させる役割を担う細胞が付きにくいのです。一方、光機能化されたインプラントは、炭素が取り除かれ、本来あるべきチタンが表に出てくるため、水が瞬時に広がる状態(親水性)を示します。つまり、新しい状態へと再生し、細胞ははるかに付きやすくなります。」
「老化したインプラントの能力を最大レベルにまで引き上げるこの技術は、通常使われているインプラントの骨との結合力を3倍以上増加させることがわかっていて、材料として最高のインプラントを届けることを可能にするこの技術として位置づけられ、患者様のため、歯科医師のためにとても重要で、有効な技術として広く共有されています。光機能化は、日本では200施設以上の一般開業歯科医院、総合病院、大学病院で導入されていて、患者様への成績も非常によいことが報告されています。」※
※光機能化バイオマテリアル研究会のウェブサイトで導入医院リストを見ることができます。
- 小川 隆広 教授の略歴
- UCLA歯学部ワイントロープセンター、先端補綴学、インプラント、生体材料学講座教授(終身教授位)、骨・インプラントサイエンス研究チーム(LBIS)ディレクター
- 1990年 九州大学歯学部卒業
- 1994年 同大学院博士課程卒業
- 2004年 米国カリフォルニア州歯科医師特別免許取得
- 2011年 UCLA歯学部教授(終身教授位)
- 【受賞歴】
- 2010年 国際歯科医学学会 William J. Gies賞
- 2011年 米国補綴学会最高学術賞
- 2012年 Academy of Osseointegration William R. Laney Award 最高研究論文賞
- UCLA小川隆広 骨・インプラント サイエンスチーム ウェブサイト
”光機能化技術”が患者様にもたらすメリット
――「光機能化技術」が患者様にもたらすメリットについて、教えて下さい。
「写真(右)のように、光機能化は、インプラントを、患者さんに使用する前に短時間、紫外線で処理することによって行われます。とても効果的なのですが、極めて簡便なのです。世界には、インプラントの製造会社が100以上あり、歯科医師の先生によっては、異なる会社のインプラントを使用さています。しかし、光機能化のいいところは、チタン製のインプラントであれば、ほぼすべてのインプラントに有効であることがわかっていて、特定の歯科医師だけとか、一部の患者様だけが恩恵を受けるということではありません。『多くの方にこの新技術のメリット』を受けていただけるのです。」
- 光機能化技術がもたらすメリット
- ・より安全で安心な治療
- ・治療機会の拡大
- ・外科手術による体への侵襲を抑えることができる
- ・治癒期間が短縮できる
- ・長く美しさと機能を保てるインプラント
「光機能化技術には多くのメリットがあります。まず光機能化技術の一つ目のメリットは、『より安全で安心な治療』を実現できる点です。まずは、こちらのビデオをご覧ください。インプラント治療と光機能化の概要がよくまとまっています。インプラント治療の成功のためには、インプラントと骨が強固に結合することが重要ですが、患者様の顎の形や骨を創る力には違いがあるため、通常のインプラントでは骨との結合が十分に得られない場合があります。一方、光機能化は、インプラントが骨と結合する能力を最も良い状態までに引き上げることができますので、様々な条件下の治療であっても、治療の成功率は一定の高い水準を保つことが可能です。臨床データによると、通常の3〜20倍以上、骨の結合力を強化することがわかっています。」
「さらに、光機能化は、個々の患者様の不利な条件を克服できるということから、『治療機会の拡大』というメリットをもたらします。例えば、歯科医師は、患者様の顎が小さい、または十分な骨の厚みや幅がないなど、骨の形態的にインプラント治療には不利な症例に多く遭遇します。このような場合、歯科医師は、患者様のためにやむを得ず、インプラント治療を断念せざるを得なくなるのです。一般にその後の安定が良いとされている全長の長いインプラントを埋め込むことが難しいからです。しかし、光機能化があれば、短いインプラントを使用しても、長いインプラントと同じ力で骨と結合することがわかっていますから、この患者様の希望に応えられることになるのです。つまり、治療を受けられる可能性が広がるというメリットです。光機能化を導入している歯科医院のリストは調べることができますので、これまであきらめていた患者様も一度ご相談に行かれると良いと思います。」
――安全で、しかも治療の選択肢が増えるということですね。
「そうですね。さらに三つ目のメリットとしては、『外科手術による体への侵襲を抑えることができる』ということがあります。医学的には、低侵襲治療といって、現代医学の共通のゴールなのです。先ほど、通常のインプラント治療では、顎の骨の厚みや幅が十分にない場合は、インプラント治療が難しいと申し上げましたが、どうしてもインプラント治療をしたい場合は、骨を増やすなどの追加の外科処置をすることで治療を行ってきました。一方、光機能化したインプラントであれば、骨が足りないケースであっても短いインプラントで治療できる可能性が高まるわけですから、骨を増やさずに治療が可能となるのです。つまりインプラントを埋め込む以外の外科手術をする必要がないということは、それだけ体を傷付けず、負担を掛けずに治療ができるということなのです。」
▲インプラント保証システムを提供する株式会社ガイドデント
「また、長いインプラントを深く埋入することにより神経を圧迫するなどのリスクも減らすことにつながります。実際、光機能化を用いると、より短いインプラントで済むこともわかっていますし、経過観察中の炎症とトラブルが著しく減ることが証明されています。またこのような光機能化の特徴から、光機能化技術を用いた場合のみに適応される光機能化インプラント保証制度※も確立されたと聞いています。安心安全が具体的な成果として現れた結果であると思っています。そして、この分野の医療が進化していっていることを象徴しているように思えます。このように、患者様にとってのメリット、患者様から歯科医師への信頼、そして、歯科医師から技術への信頼が確立されることは、我々科学者にとっては、この上ない喜びです。」
※ガイドデントの光機能化インプラント保証制度の詳細はこちら
「また、四つ目の大きなメリットとして『治癒期間が短縮できる』という点が挙げられます。通常は、インプラントをあごの骨に埋め込んだ後は、下顎の場合で3〜4ヵ月、上顎の場合で5〜6ヵ月の治癒期間を経てから人工の歯を被せますが、光機能化したインプラントは、その治癒期間を約半分にすることが可能なのです。また、症例によっては、インプラントを埋入したその日に仮の歯を作成することも可能な場合がありますが、そのようなケースでも、光機能化がインプラントと骨との接着を強化して、よい結果をもたらすことが報告されています。より早く歯を被せて治療を完了できるということですね。患者様の心配な期間、苦痛な期間を少なくできることは、インプラント医療における大きな改善です。」
――早く歯が手に入るということは患者様にとって大きなメリットですね。
「さらに忘れてはならないメリットもあります。それは、インプラントの機能的・審美的な安定性です。インプラントの周りの骨は、時間が経つと高さが減っていき、それにつれて歯茎も減っていく、ということが常識でした。そうなると見た目が悪くなるばかりでなく、歯垢などが溜まりやすくなり、炎症を起こしてしまいます。しかし、光機能化したインプラントの場合は、周りの骨の質は良好で、高さも減りにくいことがわかっています。臨床データでは、これまでの常識を覆し、骨が理想的な高さまで増えることもあることがわかっているのです。つまり、『長く、美しさと機能を保てるインプラント』が可能ということです。これらの情報は、国民の皆様に向かって、ウィキペディアの『インプラント』『インプラントの光機能化』でも詳しく紹介されていますので、ぜひご覧ください。」
★1 光機能化を導入している施設は、光機能化バイオマテリアル研究会のHPから確認できます。
★2 ウィキペディア「デンタルインプラント」「インプラントの光機能化」