■目次
大学病院の方がインプラント治療の費用が安いと言われる理由とは?
インプラント治療は原則として公的医療保険適用外のため、費用が高額になりがちです。
ただし、特定の症例に該当する患者さんが、厚生労働大臣が定める「施設基準に適合した医療機関」で治療を受ける場合のみ、インプラント治療が保険適用になります。施設基準に関しては、下記をご覧ください。
大学病院は、施設基準を満たした医療機関の可能性が高く、「保険適用でインプラント治療を受けられる場所」と認識している人も少なくありません。こうした理由で、歯科医院よりも費用が安いと言われているのです。
しかしながら、通院予定の大学病院が“施設基準を満たした医療機関”として認められていても、特定の症例に該当している場合でないと、インプラント治療は保険適用になりません。
特定の症例とは、外傷・腫瘍・顎骨骨髄炎などによって顎骨が広範囲にわたって失われた場合や、先天的に歯や顎骨が欠損している場合などを指します。虫歯や歯周病、加齢などを原因として歯を失った場合は、公的医療保険適用とならない点にご注意ください。
また、公的医療保険適用外でインプラント治療を受ける場合、歯科医院の費用の相場は1本あたり300,000円~500,000円、大学病院の費用の相場は1本あたり400,000万円~500,000円です。
費用:2024年6月 株式会社メディカルネット調べ
【施設基準】
(1)歯科または歯科口腔外科を標榜している保険医療機関であること。
(2)当該診療科に係る5年以上の経験及び当該療養に係る3年以上の経験を有する常勤の歯科医師が2名以上配置されていること。
(3)病院であること。
(4)当直体制が整備されていること。
(5)医療機器保守管理及び医薬品に係る安全確保のための体制が整備されていること。
こちらの記事もご参考になさってください。
歯科医院と大学病院で受けるインプラント治療の違い
参考:東北大学病院
参考:高知大学病院
大学病院でインプラント治療をするメリット
保険適用にならないケースでも、大学病院でインプラント治療を受けるメリットがあります。
他の科と連携して治療できる
大学病院は、多種多様な診療科が集まっているため、他の科と連携してインプラント治療を進められる点が大きな特徴です。
糖尿病・骨粗鬆症(こつそしょうしょう)・貧血・高血圧・心疾患などの持病がある患者さんは、インプラント治療を受けることが難しい場合があり、病院では担当医との連携もしやすいです。
同じ大学病院内で両方の治療を受けられる体制があれば、持病を抱えている患者さんのインプラント治療にも受けられやすいです。
設備が充実している
インプラント治療では、インプラントを顎骨に埋入する外科手術が必要です。局部麻酔を用いた外科手術が一般的ですが、恐怖心があるため静脈内鎮静法や全身麻酔を希望する患者さんもいらっしゃるでしょう。
全身麻酔が可能な歯科医院は数が限られている一方で、大学病院は設備・機材が充実しているため、全身麻酔にも対応できるところが多いです。全身麻酔を用いた日帰り手術が可能な大学病院もあります。
大学病院でインプラント治療をするデメリット
歯科医院ではなく大学病院でインプラント治療を受ける場合、以下のようなデメリットがある点も理解しておきましょう。
通院しにくい
歯科治療を行っている大学病院は、歯科医院に比べて非常に数が少ないです。
全国の歯科医院の数が6万6,825件(2024年3月末時点)なのに対し、歯学部を持つ大学の数は29校しかありません。医学部の大学病院内に歯科を設置しているところもあるため、実際は29件よりも多いですが、それでも歯科医院の数とは大きな差があります。
自宅や勤務先などのすぐ近くに大学病院がない場合は、通院が大変です。大学病院は診療時間も短いため、スケジュールの調整にも手間がかかるでしょう。
歯科医院であれば、夜間や土日の診療を行っている場合もあり、多くの方にとって大学病院よりも通院しやすいといえます。
参考:船橋森谷歯科クリニック
待ち時間が長くなる傾向にある
大学病院には日々多くの患者さんが来院するため、待ち時間が発生しやすいです。
検査も毎回場所を移動し、その都度呼ばれるのを待つということが多々あります。通院のたびに長い時間を費やすことを覚悟しておかなければなりません。
研究・研修への協力を依頼される可能性がある
大学病院は患者さんを治療する場であるだけでなく、学びの場でもあります。
治療の経過を研究対象として記録させてほしいと依頼されたり、研修・教育に協力してほしいとお願いされたりする場合もあります。研修医が治療を担当することも考えられます。
また、研修医に囲まれて治療を受ける可能性もあり、人によってはストレスを感じてしまうかもしれません。
同じ先生に継続して診てもらえないケースもある
大学病院では、必ずしも毎回同じ先生に診察してもらえるわけではありません。何人も先生がいるため、通院のたびに違う先生が担当になることも珍しくないです。
また、担当の先生を指名できる場合も、大学病院内で異動してしまったり、独立開業したりすることも考えられ、ずっと同じ先生に診てもらうことが難しい場合もあります。
選定医療費が必要になることがある
歯科医院の紹介状なしで大学病院を受診する場合、インプラント治療の費用とは別に、選定医療費がかかります。これは厚生労働省が定めた定額負担制度で、歯科の場合は、初診で5,000円以上、再診で1,900円以上の選定医療費が発生します。
背景として、大学病院などの大規模な病院では一般外来の縮小を図っていて、基本的にはまず地域の歯科医院などで診療を受けてもらうことが推奨されています。そのため、初診時に紹介状なしで大学病院を受診すると、選定医療費の支払いが追加されます。
インプラント治療は何ヶ月にもわたって通院するため、紹介状がない場合は再診のたびに選定医療費を支払う必要がある点にご注意ください。
参考:政府広報オンライン
医療以外のサービスが物足りない
歯科医院によってはキッズスペースが充実していたり、おしゃれなカウンセリング室が設けられていたりと、医療以外の独自のサービスも充実していることが多いです。
こうした取り組みは大学病院ではあまり見られないため、サービスの部分で物足りなさを感じるかもしれません。
スタッフと距離を感じる場合がある
大学病院は医療機関としての規模が大きく、働いている人の数も多いです。特定のスタッフと密にコミュニケーションをとる機会は少なく、一定の距離感を感じる場合があります。
スタッフとの会話や距離感の近さなどが気になる場合は、大学病院は合わないかもしれません
まとめ
大学病院は、インプラント治療が公的医療保険適用となる施設基準を満たす可能性が高いことから、歯科医院よりも費用が安いと言われることがあります。ただし、公的医療保険適用となる症例が限られている点にはご注意ください。
大学病院でインプラント治療を受けるメリットとしては、他科と連携して治療できる、最先端の治療を受けられる、などが挙げられます。
一方で、通院しにくい、待ち時間が長くなる傾向にある、などのデメリットがあることも理解しておきましょう。
大学病院と歯科医院のどちらが良いかは一概に言えません。どちらを選ぶべきか迷う場合は、『インプラントの相談』コーナーを利用してみるのも一つの方法です。
この記事で、大学病院のインプラント治療の費用に関するあなたの疑問が、少しでも解消されたら幸いです。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開