口腔環境(口内環境)が悪いとどうなる?懸念されるリスクを紹介

「最近になって、口腔内の環境が身体全体の健康に影響する可能性があると知った。口腔内の状態が悪くなると、いったいどんなデメリットが出てくるの?」そのような疑問をお持ちの方はいらっしゃいませんか。 口腔内の衛生状態が悪化すると、虫歯や歯周病をはじめとする病気を初めとした様々な悪影響が発生します。今回は、口腔環境の悪さによって生じ得るリスクの具体例や、口腔内を改善するために有効な3つのアプローチを紹介します。

更新日:2024/09/02

■目次

  1. 口腔環境(口内環境)が悪いと全身の健康に悪影響が及ぶ恐れがある
  2. 口腔環境が悪い場合に懸念されるリスク
  3. 歯周病によるリスク
  4. 心臓疾患
  5. 脳梗塞
  6. 糖尿病
  7. 誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
  8. 骨粗鬆症(こつそしょうしょう)
  9. 悪い歯並びによるリスク
  10. 不良補綴物によるリスク
  11. 口腔環境(口内環境)をよくするには
  12. 唾液の分泌量を多くする
  13. 悪い歯並びを改善する
  14. 歯科医院で定期検診を受ける
  15. まとめ

口腔環境(口内環境)が悪いと全身の健康に悪影響が及ぶ恐れがある

乱れた食生活、喫煙、飲酒、運動不足は生活習慣病を引き起こす原因となります。加えて、生活習慣病は虫歯や歯周病をはじめとする口腔疾患の発生にも深く関わります。

また、高齢者が口腔疾患で歯を失った場合、咀嚼機能や嚥下機能の低下にもつながってしまい、低栄養の状態に陥るリスクが高まります。それによって、要介護の状態になる可能性も増すことになるため、口腔内の健康状態は全身の健康に密接に関わっています。

参考:厚生労働省

口腔環境が悪い場合に懸念されるリスク

口腔内の環境悪化は、さまざまなリスクがあります。大きなリスク3つ(歯周病、不正歯列、不良補綴物)について解説していきます。

歯周病によるリスク

歯周病は歯肉(歯ぐき)が細菌に感染し歯肉が下がり骨が溶ける病気です。歯と歯肉の間に生じる隙間に溜まった歯垢・歯石が歯周病の原因で、進行すると口腔内から出血や膿が出て、歯が動揺して抜け落ちたり、細菌から放出される物質が歯茎の血管を通じて全身に行き渡る能性もあります。

心臓疾患

心筋梗塞は、動脈硬化によって心臓の血管が狭まったり、ふさがってしまい、血液が心臓に供給されなくなる病気です。心臓に血液が送られないと生命の危機に陥る可能性があります。

歯周病原因細菌が出す毒素は、歯肉の毛細血管から全身の血管に運ばれていきます。毒素は血管をふさいで動脈硬化を誘発する働きを持っているため、口腔内に歯周病菌が増殖すると、心筋梗塞のリスクが増すことにもつながります。

参考:日本臨床歯周病学会

脳梗塞

脳梗塞は、脳の血管が詰まったりすることによって、脳に送られる血液量が減少し、脳機能に障害が出る病気です。命が危険にさらされ、重い後遺症になるケースが多く、日本人の死因上位にも入っています。

糖尿病、高血圧、不整脈といった生活習慣病により脳梗塞の発症リスクが高まります。加えて、歯周病原因細菌は血管内皮細胞を傷つけるため、歯周病も脳梗塞が発生するリスクを上昇させます。

参考:日本臨床歯周病学会

糖尿病

糖尿病は、血糖値を下げる働きを持つインスリンの量や作用に問題が生じることにより、血糖値が高くなってしまう病気です。糖尿病が進行すると、失明、脚の切断、脳梗塞、心臓病、腎不全といった、非常に重篤な病気を引き起こす可能性が出てきます。

歯周病に罹患すると、細菌が生み出す毒素が身体中に運ばれてインスリンの作用を妨害するようになり、糖尿病の症状が悪化します。

糖尿病を発症すると免疫力が低下するため、糖尿病の影響で歯周病の悪化が進みやすくなります。そのため、歯周病は糖尿病の合併症の一つであるとされています。

参考:国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター

誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)

誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)とは、食べ物、唾液、胃液などが誤って気管に入り、異物や細菌が肺に到達することで発症する肺炎です。食べ物をうまく飲み込めない傾向にある高齢者が発症する点が特徴です。

口腔内のケアが不十分である場合も、誤嚥性肺炎の発生リスクが高まります。加えて、歯周病の原因となる細菌が肺に到達することで炎症が起こるケースが多く、口腔内を清潔に保つことによって発症リスクを大きく減らせることから、歯周病治療は誤嚥性肺炎の予防につながると考えられています。

参考:日本歯周病学会 歯周病治療のガイドライン

骨粗鬆症(こつそしょうしょう)

骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は、骨の密度や量が減ることによって骨がもろくなり、骨折が起きやすくなってしまう病気です。カルシウムやビタミンDの不足、女性ホルモンの低下、内分泌疾患などが主な原因です。歯周病によって咀嚼能力が落ちると食べ物の消化機能も低下し、カルシウムやビタミン不足になると骨粗鬆症が引き起こされる可能性が増します。

骨粗鬆症の症状が進むと、顎骨の密度が減少し歯周組織(歯槽骨)の密度も減少するため、歯周炎が進みやすくなる危険があります。

骨粗鬆症の治療薬が歯周病の発症リスクを低下させたり、歯周病を患っている人に対しては骨粗鬆症の治療薬が効果を発揮しにくくなるとされ、歯周病と骨粗鬆症の間に何らかの因果関係があることを示唆されています。

参考:日本歯周病学会誌

参考:骨密度と歯の喪失の因果関係について

悪い歯並びによるリスク

歯並びの悪さは、歯磨きの難易度を高めます。その影響で口腔内に汚れが残りやすくなると、虫歯や歯周病が発症するリスクも上昇します。

また、歯並び(噛み合わせ)が悪いと食べ物をうまく噛み砕けなく、大きな塊のまま消化器に送られることが多くなるため、胃腸の負担も増します。

噛み合わせのバランスが崩れることによって、「顎関節症」と呼ばれる、口を開けにくくなる症状が引き起こされる可能性が出てきます。噛み合わせの悪さが首や背骨にも影響を及ぼし、身体全体の歪みや、視力低下といった重大な症状を引き起こすケースもあります。

不良補綴物によるリスク

クラウンや入れ歯など、歯に取り付ける装置のことを「補綴物(ほてつぶつ)」と呼びます。「不良補綴物」とは、補綴物と歯の間に隙間があったり、噛み合わせに不具合があったり、何かしらの問題があって本来の役割を果たさない補綴物です。

不良補綴物が口腔内にあると、本来よりも噛む力が低下して、ものを噛みにくくなります。補綴物と歯の間に発生した隙間に汚れが溜まりやすくなるため、口腔内の衛生状態の悪化につながり、口臭、虫歯、歯周病などのリスクも高まります。

口腔環境(口内環境)をよくするには

口腔環境の改善は一朝一夕で行えるものではありませんが、いくつかのポイントをおさえて改善可能です。口腔環境の改善につながる具体的な手段としては、以下に挙げる3つです。

唾液の分泌量を多くする

唾液はさまざまな機能を有しており、口腔内の環境にも大きな影響を及ぼします。具体的には、虫歯、歯周病、口臭などの原因となる口腔内細菌(歯垢)の増殖を抑える効果を持っています。唾液の分泌量を増やすことは口腔環境の改善につながります。

また、ストレスや食生活の乱れが、唾液の分泌量に影響を及ぼす点にも注意が必要です。口呼吸などの影響で口腔内が乾燥したり、過度の飲酒を行っている場合も唾液の分泌量が低下してしまうため、日頃からこれらに気を配る、耳の前にある耳下腺をマッサージして唾液の分泌を促すなどが良いでしょう。

悪い歯並びを改善する

良好な噛み合わせで歯周組織の状態も健康になっていれば、しっかりと食べ物を咀嚼できるため唾液の分泌が促進されて自浄作用が高まり、口腔内環境が悪化するリスクも避けられます。悪い歯並びの改善は、虫歯や歯周病の予防にもつながります。

歯並びを改善する方法として最も一般的なのは、矯正治療です。歯に矯正器具を取り付けてワイヤーを通していく手法に加えて、人工歯根を歯茎に埋め込む「インプラント矯正」という選択肢もあるため、矯正治療を始める前に担当医とよく相談したうえで、自分にとって最も適した治療を選択しましょう。

歯科医院で定期検診を受ける

人間は細菌と共生関係にあるため、口腔内細菌を完全にゼロにすることはできません。一方で、人体に害のある細菌は減らさないと口腔内の健康の悪化につながることも事実です。だからこそ、歯科医院に足を運んで検査とクリーニングを受けることは、口腔内環境を保つうえで非常に重要です。

1ヵ月~半年に1回などのペースで定期検診を受け、歯垢や歯石の除去をしてもらうことによって、虫歯や歯周病のリスクを大きく低下させることができるでしょう。

定期的な検査は病気の早期発見・治療にもつながるため、口腔内にいる有害な細菌を減少させるためにも、定期的に歯科医院を訪れることを心がけると良いでしょう。

まとめ

口腔内環境が悪いと、歯周病や虫歯などの病気につながる恐れがあります。心臓疾患、脳梗塞、糖尿病といった命にかかわる病気の発症にも大きく関係している歯周病は国民の80%以上が罹患している生活習慣病の一つとされており特に注意が必要です。

口腔内環境を良くするためには、セルフケアに加えて、しっかりと咀嚼し唾液の分泌量を多くする、悪い歯並び(噛み合わせ)を改善することなどもポイントです。生活習慣の改善に加えて、歯科医院での定期検診も欠かせません。歯並びによっては矯正治療が必要になるケースもあるため、口腔内の状態が気になる方は、この機会にぜひ、歯科医院を受診してみてはいかがでしょうか。

記事監修

歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開