自家骨移植でインプラントができる?骨造成の種類を紹介

インプラント治療を受けようと思って歯科医院を受診したら、インプラント治療の前に自家骨移植(じかこついしょく)をする必要があると言われた。自家骨移植という言葉は初めて聞いたけど、いったいどんな治療法なの?そんな疑問をお持ちの方はいませんか。 自家骨移植は自分の骨を別の場所から採取して特定の箇所に移植する手法で、特定の箇所の骨が足りない場合によく利用されます。今回は自家骨移植の概要、移植時にしばしば採取される骨の部位、自家骨移植以外の骨移植の選択肢、自家骨移植が用いられる治療法の具体例などについて、詳しく解説します。

更新日:2024/07/18

■目次

  1. 自家骨移植とは
  2. 顎の骨が痩せているとインプラント治療はできない
  3. 自家骨を採取する主な部位
  4. 【口腔内】
  5. 上顎結節(じょうがくけっせつ)
  6. 下顎枝(かがくし)
  7. オトガイ
  8. 【口腔外】
  9. 腸骨
  10. 脛骨(けいこつ)
  11. 自家骨移植以外の骨移植の方法
  12. 他家骨移植(たかこついしょく)
  13. 人工骨移植
  14. 自家骨移植が行われることのある骨造成の種類
  15. GBR法(骨再生誘導法)
  16. ベニアグラフト
  17. オンレーグラフト
  18. サイナスリフト
  19. ソケットリフト
  20. まとめ

自家骨移植とは

自家骨移植とは、インプラントや歯周病の治療を行う際に骨が足りない部分に身体の別の部分から採取した骨を移植する治療法です。自分自身の骨を利用しているため、移植先の部位に容易に馴染み、拒否反応などのリスクを軽減できます。

一方、骨を採取するための手術が必要になることに加えて、身体の侵襲も強くなり、患者さんにかかる負担は重くなりがちです。骨が欠損している部分が広範囲の場合、自家骨移植は不可能になってしまう点も注意です。

顎の骨が痩せているとインプラント治療はできない

インプラント治療の際には、顎の骨に人工歯根(ネジ)を埋め込む必要があります。そのため、顎の骨が痩せていて、インプラントを固定できるだけの骨の厚みが足りない場合は、インプラント治療を受けられないケースもあります。

自家骨移植によって足りない骨を補うことができれば、インプラント治療を受けることが可能です。自家骨移植はインプラント治療を受けられる人を増やします。

自家骨を採取する主な部位

自家骨移植の際に採取する骨の部位は、口腔内外に大別されます。一般的に用いられることが多い部位の具体例としては、以下の5種類が挙げられます。

【口腔内】

口腔内から骨を採取する場合、短時間で手術が済み、患者さんの身体にかかる負担を軽減できます。さらに、骨を採取した部分の浸食や、治療後に残る傷跡も小さくなります。一方で、口腔内から多くの骨を採取することは難しいために骨の採取量は限られます。以下、採取する場所を紹介します。

上顎結節(じょうがくけっせつ)

上顎結節とは、上顎の奥にある少し膨らんだ部分のことです。親知らずがなければ骨の採取がしやすく、予後が悪くなる可能性は低いです。ただし、近くに神経や静脈が通っているため手術の難易度が高く、担当医には相応の技術や知識が求められます。

下顎枝(かがくし)

下顎枝とは、下顎骨奥の部分を指します。術後に麻痺が生じたり、痛みや不快感が出ることが少ないため、手術に伴うリスクを低減できます。採取可能な骨の厚みが4mm以下で、骨の採取量がやや少ない点がデメリットです。

オトガイ

オトガイとは、下顎の先の部分のことです。口腔内では最も採取できる量が多く、縫合が少ないです。口腔前庭を切開することにより、歯肉の退縮や歯槽骨の吸収を防ぐことができます。しかし、神経を損傷して麻痺が残ったり、手術に伴って多くの出血が生じる可能性があります。

【口腔外】

口腔外より移植する場合は、口腔内では難しい多くの量の骨を摂取することが可能です。入院が必要となる事もあり、口腔内からの摂取よりも患者さんの負担が大きくなる点が大きなデメリットとなります。

腸骨

腸骨とは、骨盤を構成している骨の一つです。腸骨からは多量の骨を摂取できることが最大の特徴で、皮膚を切開する部位も1cm以下と小さいため、治療後の傷跡も目立ちにくいです。ただし、手術に際して入院が必要となるだけでなく、術後1週間は車いすや歩行器を使用し、患部に負担をかけないようにする必要が生じます。

脛骨(けいこつ)

脛骨とは、すねの内側にある太い骨です。口腔内から採取が難しい海綿骨を多く採取でき、海綿骨が不足して多くの骨が必要な場合は有力な選択肢の一つとなります。しかし、腸骨の移植と同じように入院したり、採取した患部の保護が必要となるため、患者さんには負担がかかります。

自家骨移植以外の骨移植の方法

自家骨移植のほかにも、骨移植の方法があります。自家骨移植以外の主な骨移植の選択肢として、以下の2種類です。

他家骨移植(たかこついしょく)

他家骨移植は、他人の骨や牛の骨に由来する移植材のような自分の骨以外の材料を患部に移植する治療法です。自分の骨を採取しないため侵襲性が低く、多くの骨を必要とする症状であっても処置がしやすいです。

この手法では亡くなった人の骨を利用することが多いため、倫理的問題があります。安全性については問題ないとされているものの、亡くなった人や牛の骨を利用することもあって、感染症に関する懸念があります。

人工骨移植

人工骨移植は人工的に作られた骨を患部に移植する治療法です。他家骨移植と同じく侵襲性が低いため、多くの骨を使用する場合であっても容易に対応可能です。他家骨移植とは異なり、感染症のリスクが低い点も大きなメリットです。

自家骨や他家骨に比べて、人工骨の場合はやや成功率が低くなるとされています。

自家骨移植が行われることのある骨造成の種類

骨の量が足りないと進められない治療法は多く、自家骨移植は様々な治療方法で活躍します。骨造成の種類としては以下の5種類です。

GBR法(骨再生誘導法)

GBR法は、骨を失った部位に自家骨や人工骨を移植して骨の再生を促す治療法です。インプラント治療に際して、インプラント体を埋入するために必要な骨の量や厚みが足りない場合、自家骨移植を用いたGBR法が行われることがあります。

GBR法はインプラント治療に必要な骨の量をもたらしてくれるだけでなく、治療自体の安全性や成功率も高いです。ただし、骨を採取するために追加の処置が必要になる、治療期間が長くなる、喫煙者や糖尿病を患っている人には適応しづらい、といった懸念材料も存在します。

ベニアグラフト

ベニアグラフトは、板状のブロック骨を採取し、前歯の部分にある顎の骨に固定したうえで、人工骨を併用して隙間を埋め、膜で覆って固定する手法です。ブロック骨の採取元は基本的に自家骨となるため自家骨移植と密接にかかわっている治療法の一つです。

骨の状態を整えた上でインプラント治療を開始できることで、治療後の審美性の向上につながり、歯磨きをはじめとするメンテナンスも簡単になります。しかし、自家骨を使用すると手術による侵襲が大きくなることに加えて、移植した骨の安定性や、感染のリスクにも懸念が生じます。

オンレーグラフト

オンレーグラフトは、親知らずの奥や、奥歯の下といった部分から自家骨をブロックで採取し、形を整えたうえで骨が不足している部分に移植する手法です。インプラントを埋入する場所の骨の高さが、隣の歯と著しく異なる場合に行われます。

オンレーグラフトを用いることで歯の高さを均一にできるため、治療後の見た目を保てるだけでなく、ブラッシングやメンテナンスも楽になります。ただし、ベニアグラフトと同様に、手術による侵襲の大きさ、移植骨の安定性、感染リスクなどの課題があります。

サイナスリフト

サイナスリフトは、上顎にある「上顎洞」と呼ばれる空洞の中にある粘膜を持ち上げ、その部分に生まれたスペースに自家骨や人工骨を移植することによって、上顎洞の底に骨が再生され、インプラント埋入に必要となる骨の厚みを作る手法です。

サイナスリフトは多くの治療実績がある普遍的な治療法であり、ノウハウが豊富で治療の予測も立てやすくなります。一方で、手術を担当する医師の技術によって成功率が変化するだけでなく、術後の痛み、腫れ、内出血の危険性に加えて、副鼻腔炎・上顎洞炎といった危険な疾患が起きる可能性があり、移植骨を除去する原因になりかねません。

ソケットリフト

ソケットリフトは、インプラント体を埋め込む際に上顎の骨を少しだけ残したうえで、上顎洞を覆っている粘膜をその骨ごと持ち上げて、該当部分の骨を増やしながら、同時にインプラントの埋入を行う手法です。

インプラントの埋入と骨移植をまとめて行うため、手術回数を減らすことができます。さらに、インプラントを埋め込む穴から材料を入れることによって、手術に伴う傷口も比較的小さくなります。ただし、元々の骨の厚みが8mm以上あり、増やす骨の量が少ないケースでしか適応することができない手法である点には注意が必要です。

まとめ

顎の骨の量や厚みが足りない場合は、基本的にインプラント治療を受けることはできません。骨移植によって骨量を補うことができれば、本来適応できなかったはずのインプラント治療ができる可能性が出てきます。

自家骨移植は、骨移植の際の有力な選択肢の一つです。メリット・デメリットがありますが、自家骨移植に納得できた場合は前向きに治療を検討してみてはいかがでしょうか。

記事監修

歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開