■目次
インプラント治療の5つのメリット
インプラント治療とは、歯を失った箇所を金属でできたネジ(インプラント体・人工歯根)と人工歯で補う治療方法です。インプラント治療の5つのメリットを解説します。
①自分の歯のようにしっかり噛める
インプラント治療では、顎の骨にインプラント体を埋め込みます。インプラント体の材料は主にチタンまたはチタン合金で、ネジのような形をしています。インプラント体が歯の根の役割を果たすため、天然歯に近い感覚で噛めることが特徴です。
公益社団法人日本口腔インプラント学会が行なった調査によると、「現在インプラントのどのような点に満足していますか?」という質問に対し、「よく噛める」と答えた人の割合が89.8%と最も多い結果でした。
参考:公益社団法人日本口腔インプラント学会
②自然な見た目に仕上げやすい
インプラントは、インプラント体・アバットメント(連結パーツ)・上部構造(人工歯)という3つのパーツで構成されているものがほとんどです(1ピースの製品だとインプラント体とアバットメントが一体化されており、症例により使用可否が決まります)。
歯の部分に相当する上部構造の材料には見た目の良いセラミックやジルコニアが使用されるケースが多く、自分自身の歯に似た色や透明感が出せるといわれています。
インプラント体の多くはチタン製ですが、ジルコニアでできた白いインプラント体もあります。
見た目にこだわりたい方は、インプラント治療を選択すれば見た目や噛み合わせを理想により近付けることができる可能性が高まります。
③他の健康な歯に負担がかからない
失った歯を補う治療法として、ブリッジや入れ歯があります。これらは公的医療保険が適用され、インプラントに比べて治療期間が短くすみますが、ブリッジや入れ歯を固定するために健康な歯を削ることで周囲の歯に負担がかかったり、入れ歯を固定する金属が見えてしまうデメリットがあります。
インプラント治療であれば自分自身の他の歯を削ったりすることがありません。
公益社団法人日本口腔インプラント学会が発表した調査結果によると、「インプラントの選択理由について」の回答として、「他の歯を削りたくなかった」が32%と最も多いそうです。
参考:インプラント治療に対する意識調査
④顎の骨が痩せるのを防ぎやすくなる
インプラント治療によってよく噛めるようになると、人工歯根を通じて顎の骨に噛む刺激が伝わります。
顎の骨は、刺激がない状態が続くと骨の吸収によって痩せていく可能性があります。
ブリッジや入れ歯では顎の骨に刺激が伝わりにくいですが、インプラントでは直接人工歯根を顎の骨に埋め込むため顎の骨がやせるのを防ぎやすいです。
⑤健康面と精神面それぞれに好影響が期待できる
よく噛むことによる刺激が脳内の血の巡りを良くして脳の活性化につながるといわれています。認知症の予防になるともいわれており、咀嚼と脳の活性化の関係性が脳波の研究で調べられています。
また、失った歯を補うことによって歯の無い口元を見られる不安がなくなり、対人関係において笑顔を見せられるなど、精神面でも良い影響が期待できます。
歯を補うことで食事が摂りやすくなり、様々な栄養を摂取できることで身体の健康につながるかもしれません。
参考:生理学研究所
インプラント治療の5つのデメリット
メリットが多い一方で、インプラント治療には以下のようなデメリットがあります。インプラント治療を開始してから後悔しないためにも、事前にデメリットも把握しておきましょう。
①治療費が高額になる
インプラント治療は基本的に公的医療保険が適用されません。自費診療の歯科治療は治療費が高額になりやすく、インプラント治療の費用の目安は安くても1歯につき300,000円~400,000円ほどです。
多くの歯を失った場合に行われるオールオン4ではこの限りではありませんが、高額な費用がかかることに変わりはありません。また、上部構造にこだわったり、上記で紹介したジルコニアのインプラント体の使用を希望する場合は、目安よりも高額になることもあります。
インプラント治療は医療費控除(税務署に申請することで、支払った医療費の額を基に計算される金額の所得控除を受けることができる制度)の対象です。
患者さん自身で申告する必要がありますが、インプラント治療費の負担を軽減することができるので活用することがおすすめです。
2023年12月 株式会社メディカルネット調べ
②治療期間が長い
インプラント治療は、通常の歯科治療やブリッジ・入れ歯などに比べて、治療期間が長くかかります。
インプラント体と顎の骨が結合するまでには一般的に3ヵ月~半年ほどかかり、治療期間が長くなりがちです。骨の厚みや高さを増やす手術が必要な場合には、それ以上の期間がかかることもあります。
ただし、抜歯即時荷重インプラント治療は比較的短期間でできるため、治療期間で悩んでいる場合はまずは相談してみてもよいかもしれません。
③外科手術が必要になる
インプラント治療では、インプラント体を顎の骨に埋め込む手術が行われます。手術では歯肉を切開し、顎の骨にドリルで穴をあけてインプラント体を埋め込んで歯肉を縫合します。
歯肉を切開しない方法(フラップレス手術)もありますが、顎の骨にインプラント体を埋め込むことに変わりはありません。
手術中は局部麻酔がきいているため痛みの心配はいりませんが、手術後は2日~3日をピークに痛みや腫れが出ることがあります。また、出血や内出血斑などが生じるなど、ブリッジや入れ歯の治療では起こらないデメリットがあります。
④術後は定期的にメンテナンスを受ける必要がある
インプラントを長持ちさせるためには、定期的に歯科医院に通ってメンテナンスを受けることが重要です。
インプラントは人工物のため虫歯にはなりませんが、きれいに汚れを取り除けていないとインプラントの周りが歯周病のような状態になってしまいます(インプラント周囲炎といいます)。インプラント周囲炎になると、徐々に歯肉や歯槽骨(歯を支える骨)が破壊されていき、最終的にはインプラントが脱落することもあるのです。
日々のセルフケアだけでは取り除けない汚れもあるため、歯科医院で定期的にメンテナンスを受けるよう推奨されています。
⑤治療できない場合もある
インプラント治療では手術が必要なため、全身の健康状態によっては治療を受けられない場合があります。
糖尿病・骨粗鬆症・貧血・高血圧症などの治療を受けている方は、インプラント治療が難しい、できない場合があります。また、現在服用している薬の種類によっては、服薬の調整などが必要なことも考えられます。
顎の骨が足りない場合には骨を増やす手術が必要になるなど、患者さんによって事前準備が異なったり、治療ができない可能性があります。
インプラント治療を受けるかどうか悩んでいる方は、まずは歯科医院で治療ができるかどうかを相談してみるとよいでしょう。
まとめ
インプラント治療のメリットとしては、自分の歯のようにしっかり噛めること、他の健康な歯に負担をかけずに済むことなどが挙げられます。一方で、治療費が高額になる、治療期間が長い、外科手術が必要になるなどのデメリットもあります。
また、そもそもインプラント治療を受けられるかどうかは、持病の有無や服用している薬の種類によっても変わるため治療を検討している場合、まずは歯科医院に相談してみましょう。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開