■目次
骨粗鬆症とは
骨粗鬆症とは、骨の量が減って骨がもろくなり、骨折が起こりやすくなる病気です。歳を取るにしたがって病気になる可能性が高い傾向で、高齢の女性に多くみられる点が大きな特徴です。日本における骨粗鬆症患者は、1000万人以上とされています。
骨粗鬆症になると、骨の代謝バランスが崩れてしまい、骨破壊が骨形成を上回る状態となります。それによって新陳代謝が適切に機能しなくなり、骨の量の減少と骨強度の低下につながります。骨を形成するカルシウム・マグネシウム、カルシウムの吸収に必要なビタミンDをはじめとする栄養素の不足や、老化による女性ホルモンの減少などが主な原因とされています。
骨粗鬆症でもインプラントは可能?
骨粗鬆症であっても、場合によってはインプラント治療は可能です。ただし、骨の強度が低い患者さんの場合は、インプラント体の埋入方法を工夫したり、通常のものよりも骨結合しやすいインプラント体を使用する必要が出てくる点に注意しなければなりません。
患者さんが骨粗鬆症の治療薬であるビスホスホネート製剤を使用していると、手術後に顎骨が壊死する危険が出てきます。使用している治療薬の種類や治療期間によってはインプラントの埋入が可能となるケースもあります。まずは担当医に相談したうえで、専門的な判断を仰ぐことをおすすめします。
骨粗鬆症の方がインプラント治療で注意したい副作用リスク
骨粗鬆症の治療薬の種類によっては、「薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)」のリスクが出てきます。薬剤関連顎骨壊死は薬剤により顎骨の壊死が引き起こされてしまうことを指します。
骨吸収抑制薬を長期にわたって服用することによって、古い骨が新しい骨に置き換わる働きが阻害されます。骨芽細胞は最終的に寿命を迎え死にます。骨粗鬆症の治療薬の種類によっては、副作用のリスクが大きくなる点は頭に入れましょう。
具体的な症状
薬剤関連顎骨壊死の典型的な症状としては、歯や顎の痛み、歯のぐらつき、顎のしびれ、歯肉の腫れや膿などです。それに加えて、口の中に顎の骨が露出し、顎の骨が折れやすく、顎の外にある皮膚に穴が開いて膿が出るなどの深刻な症状が発生してしまう恐れもあります。
注意喚起されている薬の種類
顎骨壊死検討委員会が2023年に発表したポジションペーパーによると、骨粗鬆症の治療に用いる薬の中でも、「ビスホスホネート製剤」と「抗RANKLモノクローナル抗体」という2種類の骨吸収抑制薬については、顎骨壊死についての注意喚起がなされています。
それに加えて、ヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体、抗VEGF抗体、VEGF阻害薬、マルチキナーゼ阻害薬、チロシンキナーゼ阻害薬といった医薬品に関しても、顎骨壊死に関する注意喚起が行われています。
参考:薬剤関連顎骨壊死の病態と管理: 顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023
副作用の発症リスクを高める要素
副作用のリスクが高まる原因について、3つの項目に分けて詳しく紹介します。
薬剤に関すること
骨吸収抑制薬を使用している患者さんの場合、お口の中などの局所的な要因、自己免疫疾患などの全身要因、そして遺伝的な要因などによって、副作用の発生リスクが高まります。ビスホスホネート製剤を使用している場合、用量や累計の投与量によって、リスクがさらに上昇します。
体の特定の部位に関すること
お口の中や顎の状態で、副作用の発生リスクが高くなります。具体的には、歯周病に罹患している、お口の中の環境が不衛生である、噛み合わせの力が強すぎる、抜歯をしたことがある場合、副作用に注意が必要です。
さらに、歯周病やお口の中の環境悪化だけでなく、インプラント周囲炎、顎骨骨髄炎(がっこつこつずいえん)、根尖病変のような顎骨に発生する感染性の疾患も、副作用が起こるリスク因子であると考えられています。
体全体に関すること
お口の中や顎の状態だけでなく、全身疾患や習慣が原因で副作用のリスクが高まるケースがあります。糖尿病、貧血、自己免疫疾患、骨軟化症やビタミンDの欠乏といった骨系統疾患、喫煙・運動不足・暴飲暴食などの乱れた生活習慣、人工透析中といった要因を抱えている人の場合は、リスクの増大につながります。
また、糖尿病や自己免疫疾患を持っていたり、人工透析を行っている人の場合は、病気のコントロール状況、感染に抵抗する能力の低下、薬剤の影響などによって、発生リスクがさらに高くなる可能性がある点にも注意が必要です。
副作用に対する治療法
顎骨壊死は症状の進行に伴い、3つのステージに分類されます。最も軽いステージ0では歯や顎に原因不明の痛みが発生し、ステージ1では無症状のまま顎骨が露出します。ステージ2では細菌感染が起こって膿が出てくるようになり、ステージ3の段階に至ると顎骨の壊死が進んで皮膚に穴が開いて感染の進行により全身の状態も悪化していきます。
副作用に対処するために最も重要となるのが、感染源をできる限り排除し発症を防ぐことです。仮に症状が出てしまった場合は、初期ステージであればお口の中の洗浄や抗菌薬使用を中心に治療を行います。症状が進行している場合、壊死した骨を除去する手術や洗浄の必要が出てきます。
まとめ
骨粗鬆症だとしても、インプラント体の埋入方法を工夫したり、骨結合しやすいインプラント体を使ったりすることによって、インプラント治療が可能になります。ただし、骨粗鬆症の治療薬の種類によっては、薬剤関連顎骨壊死が発症してしまうリスクがあります。
薬剤関連顎骨壊死は一度発症すると非常に治りにくいため、発症しないよう予防することが重要です。骨粗鬆症で薬を服用している場合は、必ず歯科医師にその旨を伝えたうえで、適切な治療を受けられるようにしましょう。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開