■目次
フッ素に関する基礎知識
フッ素は科学的に合成されたものではなく、天然のものです。
食べ物や飲み物に含まれていることも多く、特に魚介類や食塩、お茶には多くのフッ素が含まれています(フッ化物といいます)。
実際、「フッ素」をとり過ぎると中毒を起こします。
そのためフッ素の毒性を懸念して、フッ化物を摂取しないように気をつける人が一部いるようです。
ちなみに、虫歯予防を謳っている製品に配合されているのは厳密にはフッ素ではなくフッ化物です。
フッ化物はフッ素とほかの元素と結合しており、フッ化物の安全性と有効性の高さは、研究においても証明されていますので、歯科治療でも日々活用されています。
参考:e-ヘルスネット
口腔内におけるフッ素の効果とは
フッ素とナトリウムが合わさったものを「フッ化ナトリウム」と呼びます。
ナトリウム自体は劇物に指定されている危険なものといわれていますが、成人の体内に約100g含まれており、人間の体に必要不可欠な成分です。
また、よく口にする「塩」は正確には塩化ナトリウムといい、日々食事で摂取されているものです。
ナトリウムとフッ素が結合した「フッ化ナトリウム」は、虫歯予防に非常に効果的であるといわれています。
フッ化ナトリウムが歯に付着することで歯の再石灰化(歯から溶け出したカルシウムやリン酸を再度取り込むこと)が促進されるほか、フッ素の働きによって虫歯菌の活動抑制や歯質の強化が可能です。
フッ化ナトリウムは適切に使えばお口の中の健康を保つために非常に効果的であり、ほぼ全ての歯科医院が使用を推奨されています。
では、なぜフッ素は危険であるというイメージがついているのでしょうか?
先に紹介したように、フッ化ナトリウムではなく「フッ素」には毒性があり、沢山摂取してしまうと身体に悪影響があります。
さらに、「フッ素でインプラントが腐食する」という諸説も原因の1つではないかと考えられます。
フッ素がインプラントを腐食してしまう仕組みについて紹介します。
参考:健康長寿ネット
フッ素はインプラントを腐食させてしまうのか
インプラントでしばしば使われるチタンは優れた耐蝕性(腐食作用に耐える性質)があります。
耐蝕性と耐錆性はほぼ同じで、簡単にいえば「水分の多いお口の中でも錆びたり腐ったりしない」ことです。
しかし、チタンは酸性の環境で、フッ素が存在すると、腐食しやすくなります。
食べたり飲んだりした後、唾液は酸性に傾きます。
酸性になったお口の環境でさらにフッ素が存在するとチタンが腐食してしまいます。
お口の中にフッ素を入れないためにフッ化ナトリウムが配合された歯磨き粉を使わないほうがいい理由です。
実際、酸性下の環境の高濃度のフッ素は、インプラントを構成するチタンを腐食させることが報告されています。
*具体的には、9000ppm以上の濃度を持つフッ素を塗布すると、チタンの腐食が大きく進むという研究結果が出ました
参考:2016年12月日本フッ素研究会報告
インプラントのかたもフッ素入り歯磨き粉を使ってOK
ですが、日本で市販されている歯磨き粉では、配合するフッ化物の濃度は1500ppmまでと定められており、9000ppmには到底届かない濃度のものです。
1500ppmのフッ化物濃度ではチタンの腐食の可能性は非常に低く、お口の中は唾液が存在しているためフッ化物の濃度はさらに下がり、フッ化物入り歯磨き粉がインプラントを腐食する可能性は非常に低いと考えられます。
日本口腔衛生学会は、「フッ化物配合歯磨剤の利用はチタン製歯科材料使用者にも推奨すべきである」という見解を発表しています。
むしろフッ化物を配合した歯磨剤はインプラントのチタンへのミュータンス菌の付着を抑制することができるため、天然歯だけではなく、インプラントに対しても効果的であるという研究結果が出ています。
そのため、インプラントが埋入されてる患者さんもフッ素入り歯磨き粉を使用しても問題ないと考えられます。
ただし、歯科医院で取り扱っている「フッ化物塗布」という歯に高濃度のフッ化物を塗る処置では、使用するフッ化物のフッ素濃度は9000ppmなのでインプラント治療を受けている場合、フッ化物の塗布は避けたほうがよいでしょう。
まとめ
フッ素の摂りすぎ毒性を持つため、歯科治療において使用することを懸念する意見も存在します。
しかし、日本口腔衛生学会などの見解や、実際の研究に基づくエビデンス(科学的根拠)のいずれにおいても、虫歯予防に対するフッ素の有効性は確認されています。
インプラントが入っている場合、市販の歯磨き粉の濃度であれば、使用しても問題ないとされています。
フッ素にはチタンに対する菌の付着を抑制する効果も期待できるほか、高齢になると増える歯の根の虫歯の抑制効果が高く、大人もフッ化物歯磨き粉はぜひ使用するとよいといわれています。
不安な場合は担当の歯科医師に確認し、無理のない範囲でぜひ取り入れてみてくださいね。
参考:日本歯科保存学会のう蝕治療ガイドライン
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。
歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。
2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。