■目次
上顎洞ってなに?
上顎洞とは、いわゆる副鼻腔のことです。
さらに詳しく説明すると、人の鼻の周りにある副鼻腔は4つあります。
このうち、頬の内側にある副鼻腔が「上顎洞」で、4つの副鼻腔のうち大きな空洞であることが特徴です。
ほかの3つは前頭洞、篩骨洞、蝶形骨洞と呼ばれています。
上顎洞は左右でほぼ対称的な形であり、人によって形や大きさに違いがあります。
上顎の奥歯のインプラントは難しい
インプラント治療は技術が必要な治療ですが、特に上顎の奥歯のインプラント治療はインプラントを埋め入れるための土台となる骨が薄いことが多く、インプラントが難しい部位であるといわれています。
また、上顎の奥歯のすぐ上に上顎洞があることも骨の薄さに関係しています。
顎の骨にインプラントを埋め込みますが、骨の厚さや高さが足りないとインプラントが安定せず、治療の失敗につながることがあります。
上顎の奥歯の付近は上顎洞があり、歯を抜いた影響で、顎骨が薄くなったり高さが足りないことが多く、インプラント治療が難しくなるのです。
上顎洞内部はシュナイダー膜という粘膜と覆われていますが、インプラントを埋め込む際に誤ってシュナイダー膜を破ってしまうと上顎洞内に細菌が入り込み、黄色い鼻水が出るなどの症状のある上顎洞炎を引き起こすリスクがあります。
上顎の奥歯の場合は骨の高さが低いと上顎洞をできるだけ避けて斜めにインプラントを埋め込んだり、骨の高さを増やしてインプラントを埋め込む、他に上顎洞の粘膜を突き破らないように意図的に突き上げて骨を足す(ソケットリフト)など、高度な技術を併用したインプラント治療をする必要があります。
上顎洞を守るために顎の骨の高さを増やす手術がある
インプラントの長さは8mm~10mmが多く、埋め込むための骨の厚みはそれ以上必要ということになります。
骨の厚みが足りなくてもインプラント治療をあきらめなければいけないというわけではありません。
現在では「上顎洞底挙上術」という治療法で、顎の骨を増やすことができます。上顎洞底挙上術には、サイナスリフトとソケットリフトという2つの方法があります。
移植された人工骨の感染やシュナイダー膜の損傷によってインプラント治療が失敗するリスクがありますので、デメリットなどの説明をしっかりと聞いて納得してから治療を受けましょう。
サイナスリフト
サイナスリフトは、たくさん骨を増やす必要がある場合に適しています。
骨の厚みが5mm以下のときにはサイナスリフトが行われることが多いようです。
上顎の側面に穴を開けて人工骨を移植するという方法です。
インプラントを埋め込む穴とは別の穴を開ける必要があり、インプラントを埋め込むのと別の手術が必要です。
上顎洞に大きくアプローチするため、術後の腫れ、赤み、痛みなどが生じることがあります。
骨の状態によっては人工骨が安定するまで6か月ほどかかることもあり、その間は治療ができないため長期的な治療が必要です。
ソケットリフト
ソケットリフトは、骨の厚みが5mm以上ある場合に用いられます。
インプラントを埋め込むための穴から上顎洞にアプローチしてシュナイダー膜を持ち上げ、部分的に人工骨を入れていく方法です。
インプラントを埋め込む穴からアプローチするため、ソケットリフトとインプラントを埋め込む手術を同時に行えることが多いです。
手術の回数が少なく、穴も小さくて済むため、身体の負担もサイナスリフトより少ないでしょう。
デメリットとしては、広範囲に骨を増やせないことが挙げられます。
また、医師が直接目で確認できない状態での手術になるため、シュナイダー膜を損傷するリスクがあります。
歯が抜けたまま放置すると顎の骨は痩せてしまう
顎の骨は、咬むなどのある程度の刺激が与えられないと次第に痩せていきます。
歯が生えている間は物を噛むという刺激が与えられますが、歯が抜けたまま放置をしている場合には刺激が加わらないためその部分だけ骨が痩せていくのです。これを廃用性萎縮といいます。
そのほか、歯周病が進行することでも顎の骨は痩せていきます。
歯が抜けた状態のまま放置していると、どんどん骨が痩せて厚みが足りなくなり、インプラント治療の難易度が高くなってしまうでしょう。
インプラント治療を検討している場合は、抜歯からインプラント埋め入れ後まで計画的に治療を受けることをおすすめします。
まとめ
上顎の奥歯のすぐ上には上顎洞という大きな空洞があり、骨が薄いため他の部位のインプラントと比べて手術が難しいです。
とはいえ、上顎洞底挙上術を行って骨を増やすことで、インプラント体を埋め込むことはできます。
インプラントにすれば天然の歯を削らずに済み、見た目も自然ですので、費用以外のメリットは多いです
インプラント治療を検討している場合は、早めにインプラント取扱歯科医院で相談して見てくださいね。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。
2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開