■目次
インプラントにはメリットも後悔もある
インプラントとは、生体に悪影響が無いチタンを主成分にしたインプラント体と呼ばれる人工歯根を顎に埋め込むものです。
インプラントが顎骨とくっ付いた後に被せ物(人工歯)を装着します。
顎骨とインプラントは強固にくっつくため、ブリッジや入れ歯のように残っている健康な歯を削る必要はありません。
また、歯が無くなったると顎骨が痩せてしまいますが、インプラントを入れることで顎骨をキープできるほか、見た目も自然にできるなど、ブリッジや入れ歯と比較して機能面や審美面で優れている面がありますよ。
しかし、インプラントのメリットを見て治療を受けたはずなのに、「実際に治療を受けてみたら後悔した」という患者さんもいるのです。
インプラント治療を受けて後悔する可能性がある理由をみていきましょう。
インプラントで後悔した理由は?
①インプラント治療を失敗した
インプラントは、インプラント体という人工歯根を顎骨に埋入する手術が必要です。
このとき、インプラントを顎骨に埋め入れるためには方向や角度などさまざまな点を事前の検査によって決定して行います。
しかしこの治療計画にミスがあると、インプラントと骨がうまくくっつかないことや思わぬ痛み・出血・麻痺などが起こってしまいます。
どんな治療でも、失敗したら後悔してしまいますよね。
②インプラントがすぐだめになった
インプラントは10年以上使えるといわれることもありますが、すぐに不具合が起きて使えなくなってしまうケースも。
インプラントはネジで固定するタイプが多く、被せ物が折れたり抜けたりすることもあります。
そのほか、自分自身での毎日のケアやクリニックでの定期的なお手入れを怠ってしまい、インプラントの歯周病ともいわれる「インプラント周囲炎」によってインプラントがグラグラして外れてしまうことも。
インプラントは虫歯にこそなりませんが、噛み合わせのトラブルやインプラント周囲炎など、自分自身の歯と同じようにトラブルが起きる可能性は十分にあるんです。
③インプラントを入れたところに痛みが出た
インプラント治療を入れたらしっかりと噛める快適な生活を過ごせると思ったのに、痛みがあって強く噛めないこともあります。
インプラント部分の噛み合わせが悪かったり、インプラントの素材自体が壊れやすいものだったりすると、痛みが出るケースがあります。
インプラント周囲炎により痛みを感じることもあります。
④出っ歯に見える被せ物を作られた
天然歯と同じような見た目にすることができるといわれるインプラントですが、歯肉や歯を支える骨の高さが低いと歯が長く見えてしまうことがあります。
前歯のインプラントでは骨の厚みなどを考慮してインプラントを埋め入れる方向や角度を決定しますが、方向や角度によっては被せ物を付けた際に出っ歯のように見えてしまうこともあるのです。
また、被せ物の厚みや形によって出っ歯に見えてしまう、歯並びが悪く見えてしまうこともあり、トラブルの原因となっているようです。
⑤下顎の神経が麻痺した
下顎にインプラントを入れる場合、埋入する場所が悪かったり、インプラントが長すぎたりすると神経や血管を傷つけてしまい、下顎の皮膚を触っても何も感じなくなるなど感覚の麻痺がおこることがあります(動きや味覚の麻痺は基本的には起こりません)。
感覚の麻痺はすぐに治療を始めれば改善することもありますが、神経や血管の損傷が大きい場合は改善しないことも。
また、せっかくいれたインプラントを一度取り除いての治療が必要になることもあります。
⑥上顎洞にインプラントが入り込んだ
上顎骨の上方には、上顎洞(副鼻腔)という骨の空洞があります。
特に上顎の奥歯はすぐ上にこの空洞があり、もともと骨が薄くなっています。
インプラントが上顎洞の骨や粘膜を突き抜けて上顎洞に入り込んでしまうと、蓄膿症や副鼻腔炎のような炎症を起こしてしまう可能性があります。
意図的に上顎洞にインプラントや人工材料を入り込ませるサイナスリフトやソケットリフトなどの治療によってインプラントが上顎洞に入り込んでいる場合は問題ありません。
しかし、計画的に治療を行ってもトラブルが起きる可能性はあります。
⑦インプラントの上の被せ物がすぐとれる
「インプラントで自分の歯のようにしっかり噛める!」と喜んでいたのに、すぐに被せ物が取れて噛めないというトラブルが起きることもあります。
被せ物を固定しているネジが緩むなどすると被せ物が外れてしまいます。
再度被せ物を付け直すことで噛むことができるようになりますが、噛む力が強い場合は何度もすぐに取れてしまったり、取り付けるネジが歪んでしまったりちぎれてしまうこともあります。
また、歯科医院の方針によっては、何かトラブルが起きた時にすぐに被せ物がとれる強さで装着しておくこともあり、しっかり噛みたい患者さんと歯科医師とで意見が食い違ってしまうというトラブルもあるようです。
⑧費用がすごく高い
インプラントは入れ歯やブリッジと違って自費診療なため、治療費が高くなります。
自費診療は歯科医院が独自に費用を決定することができるため、治療を受ける歯科医院によって費用もばらばらです。
予定していたインプラント治療が終わったタイミングでほかの歯にもトラブルが起きてしまい、追加でインプラント治療を受けたために治療計画以上の費用がかかることもあります。
そのほか、インプラント治療後のメンテナンス費用や、被せ物が壊れてしまった時の作り直し費用など、追加で費用がかかることも考えられます。
⑨保証がなくなるので転院ができない
インプラント治療には「保証制度」を設定している歯科医院もあります。
保証の内容は歯科医院によって異なりますが、治療後のインプラントに問題が起きたときの治療費用などを保証会社や歯科医院が負担するものや、治療トラブルが起きた場合の費用の支払いについてなどが決められていることが多いでしょう。
しかし多くの場合、別の歯科医院で治療を受けた場合や治療を受けた歯科医院以外での再治療は保証対象外となり、転院する際には確認しなければなりません。
インプラント治療保証会社による保証の場合は、保証会社に登録されている歯科医院でならば保証対象になることもあるので、よく確認しておきたいですね。
また、保証内容として「治療を受けた歯科医院にメンテナンスで年に◯回通院すること」といった保証の適用を受けるための条件を設けている場合も多いので、遠方に転院するときは注意が必要です。
⑩トラブルに対応してもらえる歯科医院が見つからない
もし、インプラント治療を受けた歯科医院が閉院してしまったり、引っ越しや何らかの理由で転院した場合、治療を受けたときの情報やインプラントのメーカーや製品情報などがわからないからと対応を断られてしまうことがあります。
インプラントにはさまざまな種類があり、メーカーにより使用する器具が異なることが主な理由です。
メジャーなインプラントメーカーであれば取り扱い歯科医院も多く、いくつかの歯科医院に問い合わせをするととで対応してくれる歯科医院が見つかる可能性も高くなりますが、格安インプラントなど費用を抑えるためにマイナーなメーカーのインプラントを使用している場合などでは対応してくれる歯科医院が少ない傾向にあります。
インプラントで後悔しないためにできること
信用できる歯科医院を探す
インプラント治療は高額かつ長期にわたり、患者さんの健康を左右するものです。
信頼できる歯科医院で、気兼ねなく治療の不安や疑問を相談し、安心して治療を受けられる歯科医院、歯科医師の元でインプラント治療を受けてほしいと思います。
インプラント治療についてしっかりと説明をしてくれたり、インプラント治療以外の選択肢についても話してくれる、患者さんが理想とする状態により近付ける治療を検討してくれる、事前の精密検査をしっかり実施してくれるなど、信頼関係を築ける歯科医院を選びましょう。
また、なんら問題がない関係を築けている場合も、転勤や引っ越し、様々な理由で転院を余儀なくされることもあります。
可能であれば同じ歯科医院に通院することが望ましいですが、転院する時のことを考えてメジャーなメーカーのインプラントを治療に使っているところを選択肢に入れるのも良いでしょう。
格安費用につられない
「1本◯万円」など、格安の費用でインプラント治療を実施している歯科医院も多くありますよね。
しかし、安い治療費には理由があるかもしれません。
例えば、被せ物や麻酔の費用などが含まれない金額を広告し、安く見えているのかもしれません。
費用を抑えるために、マイナーなインプラントメーカーのものを使用していたり、日本では認可されていないインプラントを使用していることもあります(歯科医師が責任を持って治療を行うのであれば、認可されていないものを輸入して使用することに問題はありません)。
インプラント治療の経験が浅い歯科医師が施術をするため、など何か理由があることもあり得ます。
全ての安いインプラントが悪いわけではありませんが、安いインプラントを選ぶ時はより一層注意して選ぶことをおすすめします。
禁煙など医師の指示に従う
インプラント治療は、インプラントを埋め込むなど手術を伴います。
喫煙はインプラント治療の予後を悪くするといわれており、基本的には禁煙するよう指導されるでしょう。
喫煙の習慣がある方にとって、インプラントを守るためとはいえ歯科医師から禁煙を指示されることは辛いかもしれません。
しかし、こうした指示を守らずに喫煙を続けてしまうと、インプラントが骨とくっつかなかったり、治療終了後にすぐにトラブルが起きてしまうかもしれません。
どうしても禁煙が辛いのであれば、こっそり吸う前に歯科医師に相談しましょう。
禁煙の期間を短くするよう工夫してくれたり、対処法を考えてくれるかもしれません。
そのほか、お口の中に傷がある間の食事や生活習慣、服薬、歯磨きなども歯科医師の指示に従って行ってくださいね。
不安な時はセカンドオピニオンがおすすめ
歯科医師の説明に疑問を持ったり、ほかの意見も聞いてみたいと思ったら、セカンドオピニオンとして別の歯科医師にも話を聞いてみてください。
そして、より自分自身が納得できる、安心して治療に臨める歯科医院で治療を受けましょう。
不安があるまま治療を進めると、心配が募っても後戻りできなくなってしまいます。
「検査で歯科用のCTがなかった」「埋入するのに骨が足りないと言われた」「思ったより多い本数のインプラント治療が必要だと言われた」「高圧的で話しにくい」といった不安の相談も多く寄せられています。
焦って治療を行わず、自分自身が一番納得がいく治療が受けられるように考えてみてくださいね。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。
歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。
2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。