■目次
歯の壊死とは?
歯の壊死とは、正確には「歯の神経の壊死」のことです。
歯の神経は歯科用語では歯髄(しずい)と呼ばれます。
歯の中には歯髄腔と呼ばれる空洞があり、歯髄(歯の神経)や血管が通っています。
歯の神経が壊死すると神経として機能しなくなり、歯の痛みや温度(熱い・冷たい)を感じなくなります。
「虫歯を放っておいたら痛みがなくなった」「虫歯を放置していたら治った」と聞いたことはありませんか?
それは、虫歯菌が歯髄へと達したため、歯髄が壊死して痛みを感じなくなったため。
治ったわけではなく、むしろ神経が死んでしまうという悪化した状態なんですね。
歯の神経は壊死してしまうと元に戻すことはできません。
では、まずはなぜ歯の神経が壊死してしまうのかをご紹介します。
歯が壊死してしまう原因
歯の壊死が起こる原因はいくつかあります。
重度の虫歯や歯周病など、菌が歯の中や外から歯の神経まで到達してしまったことにより歯が壊死するケースです。
根尖病巣と呼ばれる、歯の根の先に菌が溜まる疾患を放置していても起こり得ます。
虫歯や歯周病・根尖病巣の早期発見・早期治療ができれば、細菌による歯の壊死を予防することができますよ。
そのほかに、歯を強くぶつけたり、噛み合わせが悪いなど歯に強い力が加わることでも起こります。
稀に、矯正歯科治療で歯を動かす強い力を加えたことによって歯が壊死することもあるようです。
例えば子供の頃に前歯の神経が壊死して被せ物を入れている患者さんは少なくありません。
これは、前歯が永久歯に生え変わる6~7歳頃は小学校に入り活発に動くため、運動中に転んだり他人とぶつかるなどして、前歯に強い衝撃が加わる事故も多く起こるためだと考えられます。
「歯の壊死」は割と簡単に起きてしまうのです。
歯が壊死している場合の症状は?
自分自身の歯が壊死していないか心配ですよね。
歯が壊死している場合によくある症状は次の2つです。
歯の変色
歯髄壊死が起こった歯は、ほかの歯と比べて色が変わります。
茶色、グレー、黒といった暗い色に歯が変色していたら要注意です。
ちなみに、歯は着色によって茶色になることも。
歯医者さんは歯髄壊死による茶色か着色の茶色かはすぐにわかりますが、一般の方にはわかりにくいかもしれません。
歯が茶色くなっていて心配な場合は、早めに歯科医院で診てもらいましょう。1歯だけ茶色っぽいのであれば、歯髄壊死の可能性が高いです。
仮に1本だけ着色している場合も、汚れなので歯科医院で落としてもらうことをおすすめします。
着色だったらどうしよう、と心配する必要はないので、気軽に歯科医院に行ってみてくださいね。
痛み・しみることがなくなる
歯が壊死してしまうと、痛みを感じることがなくなります。
熱いもの、冷たいものがしみることや、痛みを感じない場合は要注意です。
歯を押したり噛んだりする感覚は歯の神経ではなく歯根膜と呼ばれる別の部位でも感じることができるため、痛みを基準にしてみてください。
痛みを感じていたはずの歯が痛くなくなった、知覚過敏だった歯がしみなくなった、などの場合は歯の壊死が起こった可能性が高くなります。
特に虫歯は自然に治ることはありません。
仮に虫歯が原因の痛みを感じなくなった場合、痛みを感じていた時以上に虫歯が重度に進行した可能性があります。
歯が壊死してしまった場合の治療方法
「いつの間にか歯が変色してしまった」という患者さんは多くいらっしゃいます。
歯の壊死を放置していると、顎骨の中(歯の根っこの部分)に膿ができます。
この状態をさらに放っておくといずれ抜歯が必要になる可能性が高まりますし、骨髄炎などに発展することもあります。
将来にわたって長く自身の歯をもたせるには、壊死した神経と歯の治療が必要です。
壊死した歯髄の除去
壊死した歯の神経(歯髄)は元に戻ることはありません。
そのため、まずは壊死した歯の神経を歯髄腔(歯の中の空洞)から取り除くための「根管治療」というものを実施します。
壊死した歯の状況によって、数回に分けて除去を行うこともあるでしょう。
神経の一部が壊死して、一部がまだ生きている場合は壊死した部分だけを取り除き、残りの神経を保存する治療を行うこともあります。
これは部分断髄法と呼ばれる治療法で、専門医では比較的高い成功率といわれていますので、歯髄の状態に応じて検討してみましょう。
根管の消毒・清掃
歯の神経を全て取り除いたら、神経の通っていた歯髄腔をきれいにする必要があります。
歯髄腔は歯の根の中も通っており、根の部分の歯髄腔を根管といいます。
壊死したもの、腐ったものが入っていた場所はきれいではないですよね。
神経を取り除いた後も細菌が残っているケースがほとんど。
そのため、処置が必要なのです。
歯髄を除去できたら、細菌を繁殖させないよう根管の消毒・清掃を十分に行います。
根管の封鎖
歯の神経や血管を取り除いた歯髄腔は、からっぽの空洞になってしまいます。
専門用語で「死腔(しくう)」と呼びます。
からっぽの空洞のままでは再び細菌が繁殖する・入り込んでしまう可能性があります。
そのため、新たな細菌が根管に侵入しないように、詰め物で封鎖をします。
この根管の封鎖の精密性が高いほど細菌が繁殖しにくく歯に再び問題が起きにくくなり、結果歯が長持ちするともいわれていますよ。
歯の壊死による変色は白くなる?
歯の壊死の治療が完了しても、一度変色した歯の色は改善しません。
それどころか、歯髄を取り除く時に血管も一緒に取り除くことになるため、栄養が届かなくなった歯の変色が強まることも。
歯の壊死によって変色した歯は、ホワイトニング歯磨き粉や通常の歯科ホワイトニングでは白くすることができません。
歯の壊死による変色を白くする方法でよく行われている2つの方法をご紹介します。
ウォーキングブリーチ
「ウォーキングブリーチ」は、歯の神経の通っていた歯髄腔にホワイトニング剤を入れて白くする方法です。
通常のホワイトニングでは歯の表面からホワイトニング剤を反応させますが、歯の壊死による変色は、歯の内側からホワイトニングすることで白くすることができますよ。
ウォーキングブリーチでは、壊死した歯髄を除去して、根管の消毒・清掃が完了した根管に、ホワイトニング剤を入れていきます。
1週間ほどかけてじっくりと内側からホワイトニング剤を反応させていきます。
ホワイトニング剤の交換を数回繰り返すことで、徐々に歯が白くなっていくのです。
最後は詰め物で封鎖して治療完了となります。
通常のホワイトニングよりも高濃度のホワイトニング剤を使用するほか、歯髄腔に材料を入れるなどの技術が必要なため、自分自身で行うことはできません。
歯科医院で施術を受ける必要があります。
ウォーキングブリーチは、ホームホワイトニングやオフィスホワイトニングなどの通常のホワイトニングと同様に時間が経つにつれて歯の白さは戻っていってしまいます。
そのため、定期的にウォーキングブリーチをしなければいけないのがデメリットといえるでしょう。
セラミック治療
歯が全体的に変色していたり、極端に黒く変色していたりする場合には、ウォーキングブリーチよりもセラミック治療が適しているかもしれません。
セラミック治療の一つは、歯を削ってセラミッククラウンですっぽりと歯を覆う「オールセラミッククラウン」という方法。
セラミックを被せることで、自分自身の歯の色をカバーすることができますよ。
また、「ラミネートベニア」という治療法もあります。
これは、歯の表面に薄い貝殻状のセラミックを貼り付けて白く見せるもの。
セラミックの寿命は10年程度といわれているためこちらも再治療が必要になる可能性が高いですが、ウォーキングブリーチとは違い、歯の色はずっと保つことができますよ。
セラミッククラウンよりも切削量が少ないのもメリットです。
そのほか、一次的に歯に白い塗料を塗って「歯のマニキュア」でも白く見せることができます。
ただし、歯のマニキュアはちょっとした衝撃で剥がれて歯の色が見えてしまったり、ムラになることも。
継続的に長期間歯の色を整える方法は、ご紹介した2つの治療が多くとられています。
歯の神経を再生する治療!?
歯髄を通る神経は、壊死してしまったら治ることはないとご紹介してきました。
ですが、神経を再生する治療「歯髄再生療法」というものもあります。
患者さんの親知らずなどから歯髄の幹細胞を培養し、歯髄を除去した部分に移植するというものです。
移植後、徐々に神経やその周りにある象牙質が再生していき、歯が壊死する以前のような状態になるのです。
ただ、必ず治療が成功するというわけではありません。
具体的な成功率は発表されていませんが、高い成功率とはいえないようです。
歯髄の幹細胞の培養の時点での成功率、加えて、移植後の成功率を考えると、まだまだ研究中の治療法といえるでしょう。
また、歯髄再生療法は公的医療保険が適用されません。
成功しても失敗しても自費診療(患者さんの全額自己負担)ですので、よく相談して治療を検討してみてくださいね。
まとめ
歯が変色しているなど「壊死しているかもしれない」と感じたら、放置せずに適切な治療を受けることをおすすめします。
また、歯の壊死による変色は自分自身で白くすることは難しいものです。
見た目の治療も含めて、歯科医師とよく相談してから治療を始めてくださいね。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。