■目次
インプラントで大量出血?
「インプラント治療の手術中で事故、患者が大量出血」といったような記事を、多くの方が目にしたことはありませんか?
実際にインプラント手術で医療ミスが起こることはあるのでしょうか?
インプラント治療を行っている歯科医院では、そういった大きな医療ミスが起こる確率は非常に低いものであり、リスクとして心配する必要はほとんどないと説明を受けることも多いでしょう。
しかし、実際にインプラントを埋め込む手術によって大量出血を起こしたケースは存在するのです。
”血管損傷”はインプラント治療のリスク
インプラント手術による血管損傷の確率は低いと言われていますが、立派なインプラント治療のリスクの1つです。
下顎の骨の中には太い神経と血管が通っており、インプラント埋入時に血管や神経を傷付けてしまったり圧迫してしまうと大量出血や神経麻痺がおこる原因となり得ます。
神経麻痺が起こる割合は0.13~8.5%(厚生労働省)と言われており、併行している血管を傷つけてしまう可能性もあります。
また、下顎の血管を傷付けてしまうと大量出血が起こり、上を向いて口を開けている患者さんは息ができなくなり窒息してしまいます。
また、傷付けた血管の周りの組織が急激に炎症を起こし、腫れるなどして窒息してしまうケースもあるようです。
万が一血管を傷つけてしまっても、多くの場合は医師が迅速に適切な止血などの処置を行えれば最悪の事態を回避できるとされていますが、大きなリスクであることは覚えておきたいですね。
下顎には太い血管と神経がある
インプラント手術で大量出血のリスクがあるのは、特に下顎にインプラントを埋め込む場合です。
下顎の骨の中には下顎管という太い空洞があり、その中には下歯槽動脈と下歯槽神経と呼ばれる太く大きな血管・神経が通っており、損傷すると大量出血や神経麻痺を引き起こします。
そのほか、大量出血による死亡事故が起こる場合は下歯槽動脈、舌下動脈、オトガイ下動脈といった下顎の周囲にある主要な動脈の切断が原因であることが多いのです。
血管や神経の立体的な位置を手術前に把握していないと、ドリルで骨を削り過ぎてしまったり、インプラント体を埋め込む場所が適切でなく、血管の損傷や切断に繋がるのです。
血管損傷による影響は?
主要な動脈を損傷すると、止血が難しく、呼吸ができないほどに下顎の歯ぐきの内側が膨れ上がります。
万が一の場合は、処置のためにすぐに高次医療機関に救急搬送されます。
救急対応で止血できた場合にも、太い神経も損傷している可能性が高く、歯や歯ぐき、下唇などの感覚が鈍くなったり、ピリピリと麻痺したりする症状が長期間続くことも。
また、血管や神経の損傷がそこまで重大でない場合も、手術後に痛みや腫れを感じるといった影響があります。
正しいインプラント治療を受けましょう
血管損傷は、インプラント手術を行う歯科医師が下顎管や血管・神経の位置を正しく把握できていないとリスクが高まります。
下顎管や血管・神経の位置はCTで把握することができるため、インプラント治療前の検査をしっかりと行っている場合は、血管損傷のリスクが下がると考えていいでしょう。
ちなみに、料金の安さでクリニックを選んでしまうとインプラント治療前の十分な検査が含まれていない可能性もあります。料金設定の中身を知ることが大切です。
インプラント治療はどこで受けても同じではなく、医師の知識・技術が大きく関係している治療です。
インプラント治療に対する知識・技術があり、経験豊富なこと、専門医の資格を有していること、そして治療前にCT撮影などの入念な検査を行って、血管損傷が起こるリスクをできる限り減らそうとしている歯科医院を選びましょう。
まとめ
インプラント治療にはリスクがあるものの、基本的には血管・神経損傷が起きないように、多くの歯科医院ではCT撮影を行い、神経や血管の走行を細かく把握します。
術前の検査や説明をしっかりと行う歯科医師のもとでインプラント治療を受ければ、血管や神経の損傷リスクをそこまで心配しなくて良いでしょう。
インプラント治療はメリットが大きくフューチャーされる治療ですが、多少のリスクがあることも覚えておきましょう。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開