インプラント手術後に続く痛み

インプラントの手術後に、眠れないほどの激しい痛みや、長期間痛みや腫れが収まらないといった症状は出ていませんか? 長期間続く痛みや腫れは、細菌感染を起こしていたり、重度の炎症が起きているなどの重大なトラブルの可能性があります。 今回は、インプラント治療後の痛みの原因と、その対処法について紹介していきます。インプラント手術後に痛みがあり不安な方は参考にしてみてくださいね。

更新日:2021/08/09

■目次

  1. インプラント手術後、2週間たっても痛みが続く…
  2. インプラント手術後に痛みが続く原因とは?
  3. インプラント手術後に痛みが続く時の対処法!
  4. インプラント手術後、痛みのほかにしびれがある場合
  5. インプラント手術後、数日痛みが続くのは大丈夫?
  6. インプラント手術後の痛みを予防するために

インプラント手術後、2週間たっても痛みが続く…

一般的にインプラントの埋め込み手術による痛みと腫れは、およそ1週間程で落ち着くいてくると考えられています。

日にちが経つにつれて痛みが引いてきて、アルコールの飲用や運動、お風呂によって血行がよくなった時だけ痛みを感じる場合は問題のないケースが多いようです。

では、痛みの強さが全く変わらない場合、だんだん痛みが強くなっている場合はどうでしょうか?

痛みが全く変わらない場合、だんだんと痛みが強くなる場合は、歯茎や骨が細菌感染している可能性が考えられます。特に痛み止めが効かないほどの痛みがある場合は、注意が必要です。

また、痛みが続く原因として、インプラントが周りの歯に触れてしまっているケースもあるようです。

多くの歯科医院は、インプラント埋め込み手術後約1週間で抜糸(術部の歯茎を縫い合わせている糸を取り除くこと)を行っています。痛みが続いている場合は抜糸で通院した際に、感じている痛みと具体的な症状について担当の歯科医師に診察してもらうといいでしょう。

痛み止めを飲んでいる人は、痛み止めの種類と飲む頻度を、特定の状況で痛みが出る人は状況を詳しく説明できるようにしておくことで、より正確に痛みを伝えられるポイントとなりますよ。

インプラント手術後に痛みが続く原因とは?

インプラント手術後に痛みが続く原因についてご紹介します。

細菌感染

強い痛みが生じる原因として、まず考えられるのが「細菌感染」です。

細菌感染を起こしてしまう原因として、
・インプラント埋め込み後にお口の中の衛生状態が悪かった
・気になって指や舌で触ってしまった
・処方された抗生物質を飲むことを途中でやめてしまった
・手術後に飲酒してしまった
・手術後に喫煙してしまった

場合などに、インプラント埋め込み部分が細菌感染してしまうことが多いとされています。

ほかにも辛いもの熱いものは傷口への刺激となるため、治りが遅くなったり、傷の閉鎖が遅延して結果的に細菌感染に繋がることも。

また、残念なことにインプラント埋め込み手術に使う器具が衛生的ではなかったため細菌感染が発生してしまうこともあるようです。

オーバーヒート

インプラント手術では顎の骨を削ってインプラントを埋め込みます。
その際にドリルと骨は摩擦力が生じ、熱が発生します。通常、冷却水を注入しながら行うなど摩擦による熱を軽減するための対策を行いますが、何らかの理由によって熱が加わりすぎてしまう「オーバーヒート」が起こることがあります。

オーバーヒートによる骨の火傷で骨組織が壊死してしまう可能性があり、インプラント体と骨がくっつかなくなるなどの可能性もあります。

強い刺激、圧、噛み合わせ

インプラントを埋め込んだ部分に、強い刺激がかかった場合や、噛み合わせによる強い力が加わってしまうとインプラント部分に痛みが出る原因となります。

特に、インプラント治療直後に仮歯を装着している方は力がかかりやすいため、痛みが出てしまうことも。

仮歯は歯が全くない期間を無くすことができ、食事がしやすい、歯並びや噛み合わせを維持できるなどのメリットがありますが、使用には注意が必要です。
もし噛み合わせに違和感を感じたら歯科医院で調整してもらいましょう。

また、寝ている間の歯ぎしりや食いしばりで強い力がかかってしまうこともあります。インプラント治療前に歯ぎしりや食いしばりがあることがわかっている方は、マウスピースを製作して使用するなど対策するといいかもしれませんね。

インプラント手術後に痛みが続く時の対処法!

インプラント埋め込み手術から1週間以上が過ぎても痛みが続く場合は、まずは痛みが続いていること、どのような痛みなのかを歯科医師に伝えてみましょう。

・抗生物質は飲み切ったか?飲み忘れはなかったか?
・どのような時の痛みか?
・どのような痛みか?(ズキズキ、ピリピリなど)
・痛み止めは効くか?
・飲んだ痛み止めの種類は?

などが明確になっていると、痛みの特定に役立つかもしれません。

痛みが長期間続く要素がなかった場合は、レントゲンやCTを撮影するなど精密検査を行い、痛みの原因を特定してもらいましょう。

軽度の細菌感染であれば、抗生物質や痛み止めの処方などで改善が見込めますが、重度の細菌感染では、インプラントや周りの組織の状態によっては、一度インプラントを除去し、感染している組織を取り除いたうえで、数ヶ月後に骨が回復してから、再度インプラントを埋め込みなおすこともあります。

痛みはインプラント周囲の状態を表す大切な基準でもあり、気になることや小さな不安でも相談しておくことで、問題を早期に発見し、重症化する前に早期に治療することができる可能性が高まります。
問題のない痛みだったとしても、歯科医師から説明を受けて安心することで身体や心の状態が安定し、症状が改善に向かうこともあります。

気になること、不安に思ったことを歯科医師に伝えることが、安心してインプラント治療を受けるためのポイントかもしれませんね。

インプラント手術後、痛みのほかにしびれがある場合

インプラント埋め込み手術を受けた後、痛みのほかに痺れが出ている場合、インプラントを埋め込んだ時に神経を傷付けてしまっているかもしれません。

下顎には「下顎神経管」と呼ばれる大きな動脈、静脈、そして神経が通っている空洞があります。埋まっている親知らずを抜歯するときに注意が必要な下顎神経管ですが、インプラントの治療の際にも十分な注意を払って治療を行います。

しかし、インプラント体(フィクスチャー)を埋め込んだ際に、下顎神経管を通る神経を傷付けてしまう、あるいは圧迫してしまっていると、唇や顔の皮膚がしびれたり、感覚がないような状態になってしまうことがあります。

インプラント手術後にしびれがある場合は、すぐに担当の歯科医師に相談して処置を受けるようにしてください。

インプラント手術後、数日痛みが続くのは大丈夫?

インプラント手術は歯茎の切開や骨を削る処置を伴います。歯茎を切る、骨を削るなどは身体に傷を付ける「侵襲性」の高い処置と呼ばれ、傷付けられた身体は自分自身を守るために免疫機能や防御機能が働きます。

「炎症」は免疫機能や防御機能の1つであり、腫れや痛み、熱を持つなどの症状が現れます。インプラント手術後に数日間痛みや腫れが続くことは、免疫機能や防御機能が働いている証拠であり、多くの場合は問題のない痛みや腫れと言えるでしょう。

手術中の痛みや腫れは、麻酔が効いているため感じることはありません。しかし、麻酔が切れた後は痛みが生じてきます。

痛みや腫れは「侵襲性」が高いほど強く現れる傾向にあり、歯茎を広く切開した場合や骨造成手術のような処置を行っている場合はより強く痛みや腫れが出るようです。
痛みが続く期間には個人差がありますが、抜歯の時の痛みと同じように、2~3日、長くても1~2週間で治まることが多いでしょう。

痛みや腫れがあまり強くない場合は、痛み止めを服用することで改善がみられるかもしれません。歯科医院から痛み止めを処方されていない場合は、市販の痛み止めを服用しましょう。

痛みの感じ方は個人差があり、痛みがあることに対する不安やインプラントの状態に心配を感じる場合は歯科医院で1度診てもらいましょう。

インプラント手術後の痛みを予防するために

処方された薬を飲み切る

手術後に医師から処方された薬は、指示の通りに飲み切りましょう。細菌感染予防のために抗生物質が処方されていることもあり、飲むのを止めてしまうと耐性菌出現の原因となることがあります。

ただし、症状が出た時に患者さん自身が判断して飲む「頓服薬」である痛み止めは、処方された分すべてを飲み切らなくても問題ありません。

お口の中をきれいにする

細菌感染などによる強い痛みを予防するためには、お口の中をきれいにしておくことも大切です。

手術後しばらくは傷口への刺激を避けるために、インプラント治療を行った部分への強いブラッシングや刺激の強い歯磨き粉を使うことは控えます。
ですが、傷口以外はしっかり歯磨きをしましょう。歯磨き粉を使わなくても、歯ブラシの毛先が歯にしっかりと当たっていれば汚れを落とすことができますよ。

傷口を刺激しない

手術後の傷口は痛みがあったり、場合によっては歯茎を糸で縫い合わせているため違和感があり、気になって触ってしまいがちです。麻酔が効いている間も、感覚がないため無意識のうちに触ってしまうことがあるようです。

触ってしまうほかに、傷口がある程度塞がるまでは辛いものや熱いものなど、歯茎を刺激するものは避けるようにしておくと良いですね。

インプラント手術後に少し痛みが出るのは身体の正常な反応であり、過剰に心配することはありません。しかし、長期間痛む場合や、眠れない、心身のストレスになるような強い痛みがある場合は、担当の歯科医師に相談しましょう。

問題のない痛みであっても早めに相談し、問題ないと診断を受けることで安心できるというのは大切なポイントです。不安は一人で抱え込まず、担当の歯科医師に相談して解決していきましょう。

早めの相談は、傷口の治りやインプラントに問題があった場合に適切な処置を早く受けることができるため、患者さんにとっても歯科医師にとっても良いことです。
気になる点がある場合は躊躇わずに、ぜひ相談してみてくださいね。

記事監修

歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。