■目次
先天性欠損とは
先天性欠損とは、「先天性欠如」や「無歯症」などとも呼ばれ、何らかの原因により生まれつき永久歯が生えてこないことをいいます。
先天性欠損は、乳歯と永久歯が共に欠損しているケースと、乳歯は生えてきたがその後に生えてくる予定永久歯が生まれつき無いケースがあり、患者さんによって欠損パターンが異なります。
遺伝、妊娠中の栄養失調・飲酒・喫煙、薬の副作用など、先天性欠損の原因は様々です。しかし、先天性欠損になる明確な原因はわかっていません。
また、親知らず(第三大臼歯)は生えてこない方も多く、先天性欠損には含まれないとされています。
大人になってからでも先天性欠損かどうかは歯科で診断することができます。
先天性欠損が疑われる場合は早めに歯科へ通院し、先天性欠損かどうかを確認しておきましょう。乳歯が抜けた直後に診察を受けておくことで、乳歯が抜けた後の先天性欠損部分の治療をスムーズに受けることができます。
先天性欠損に保険が適用される条件
2020年4月より、先天性欠損のある患者さんのインプラント治療にも公的医療保険が適用されるように改定されました。
しかし、先天性欠損のある患者さんがインプラントを公的医療保険を適用して受けるためには、令和2年度診療報酬改定で下記の算定要件を満たす必要があります。
6歯以上の先天性部分(性)無歯症または3歯以上の前歯永久歯萌出不全(埋伏歯開窓術を必要とするものに限る)であり、連続した3分の1程度以上の多数歯欠損(歯科矯正後の状態を含む。)であること。
が条件とされています。
参考:中央社会保険医療協議会 総会(第 451 回) 議事次第
簡単にご説明すると
・先天性欠損が6歯以上ある(生まれつき6本以上の歯が欠損している)
(あるいは前歯の永久歯に3歯以上存在するが生えてこない歯がある)
・先天性欠損が連続して4歯あるいは5歯以上ある
(歯列矯正後も4~5本以上歯が欠損している部分がある)
の2条件に当てはまる場合、インプラント治療を公的医療保険適用下で受けることができるということです。
反対に、
・先天性欠損が6歯未満
・歯列矯正によって歯を動かし、連続して4~5歯欠損している部分を補った
・先天性欠損が6歯以上あるが場所がばらばらで、連続して4~5歯欠損している部分はない
という方は、公的医療保険を適用してインプラント治療を受けられない、ということになります。
(口唇口蓋裂などにより歯が生える顎堤の形成不全が認められ骨移植を必要とする場合、1-2歯欠損の場合でもブリッジ形態のインプラントであれば、適応可能です。)
保険適用のインプラント治療が可能な病院
公的医療保険を適用してインプラント治療を受けることができる病院も限られています。
①歯科または歯科口腔外科を標榜している保険医療機関であること。
②当該診療科に係る5年以上の経験および当該療養に係る3年以上の経験を有する常勤の歯科医師が2名以上配置されていること。
③病院であること。
④当直体制が整備されていること。
⑤医療機器保守管理及び医薬品に係る安全確保のための体制が整備されていること。
といった施設基準を満たした歯科または歯科口腔外科のみで公的医療保険を適用して治療を受けることができます。
公的医療保険を適用してインプラント治療を受けたいとお考えの方は、歯科医院を探すときに公的医療保険を適用しての治療が可能な病院かどうかを確認するようにしましょう。
受けられるのは「広範囲顎骨支持型装置埋入手術」
インプラントというと、失った歯と同じ本数のインプラントを埋入し、1本1本に被せ物をするといったイメージが強いかもしれません。
しかし、公的医療保険を適用して受けるインプラント治療は、「広範囲顎骨支持型装置」と呼ばれるものです。
取り外しが可能な義歯タイプのものと、インプラントからインプラントへとつなぐブリッジタイプのものがあります。
ブリッジタイプのものは、通常のブリッジ同様、患者さん自身での取り外しができません。
義歯タイプのものは、以前は「インプラント義歯」などとも呼ばれており、インプラントの上から義歯(入れ歯)を装着する治療法です。
インプラントを土台とすることで通常の義歯よりも安定性がよく、より噛みやすくすることができます。
埋入したインプラントにバーを橋渡しして義歯を安定させる「バーオーバーデンチャー」、インプラントに先端がボールのようになった特殊な金属装置を装着してボタンのように義歯を装着する「ボールアバットメントオーバーデンチャー」、インプラントにマグネットを装着して義歯とくっつくようにする「マグネットオーバーデンチャー」などさまざまな方法で高い安定性を得られるようにされています。
インプラント治療に公的医療保険を適用するにはさまざまな条件があります。
先天性欠損があり、公的医療保険を適用してのインプラント治療をご希望の方は、まずは通院している歯科医院にて先天性欠損の本数や部位を確認してもらいましょう。
公的医療保険が適用されるとなったら公的医療保険を適用してインプラント治療を行うことのできる病院を受診し、相談してみてはいかがでしょうか。
また、公的医療保険が適用されない場合も、自由診療であれば欠損部のインプラント治療を受けることができます。
費用や治療方法、希望するお口の中を歯科医師とよく相談し、先天性欠損分の治療を検討しましょう。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。