■目次
①飛行機に乗ったらインプラントが痛む?
インプラントそのものが気圧の変化によって痛むことはありません。
インプラント治療後に飛行機に乗る場合に注意しておきたいのは、インプラントの埋入方法と埋入手術からの経過日数です。
もしソケットリフトやサイナスリフト、切開埋入(歯茎を切り開いてインプラントを埋入する手術)などを行っている場合は、気圧の変化によって患部が痛む可能性があります。炎症や出血が起きる可能性があるため、インプラントが骨と結合し、安定する3-6ヶ月は搭乗を極力控えるようのも良いかもしれません。
また、インプラント埋入手術直後は飛行機に乗るのを避け、手術後10日~2週間は安静にしましょう。
気圧が低くなるとなぜ耳やお腹など身体の一部が痛む場合があるのでしょうか。
気圧の低下すると、空気が外側から押す力が弱まります。風船や密封された袋が、気圧が低いところではパンパンに膨らむのはこのためです。人間の身体には空洞があり、飛行機に乗ると耳やお腹に変化が生じるのはこうした理由からです。
耳やお腹だけでなく、歯の周囲にも空洞が存在します。歯の内側にある「歯髄腔」や、鼻の横にある「上顎洞」などは空洞となっており、こうした空洞の空気がわずかに膨らむだけでも痛みを感じます。
この「上顎洞」に近いところにインプラントを埋入した場合、歯科医師から鼻を強くかむのを控えるように指示されることがあります。そうしたケースでは気圧の変化を受けやすい状態のため、長時間のフライトとなる場合は負担が大きくかかる場合があります。歯科医師に確認し、より注意が必要です。
また、鼓膜に加わる気圧を調整する「耳抜き」も危険と考えられているので、飛行機以外にも山登りやダイビングなどの極端な上下移動を控えてください。
こうした対策を講じたうえで痛みが出る場合は、虫歯や根尖嚢胞など、ほかの歯科疾患が原因となっている可能性もあります。担当の歯科医師にご相談ください。
②金属探知機はインプラントに反応する?
「金属探知機は装着している銀歯やブリッジに反応しなかった」という方がほとんどだと思います。
金属探知機は、金属の大きさや原子量の大きさに比例して反応します。インプラントはチタンと呼ばれる金属でできており、金や銀の原子量に比べて小さい原子量とされています。そのため、金属探知機はインプラントにほとんど反応しないと考えてよいでしょう。
近年、金属探知機の精度が上がってきており、チタンが金属探知機に反応することもあるかもしれませんが、医療目的でチタンを使用しているのであれば搭乗は可能です。
「大事な目的で飛行機に乗るため心配だ」という場合は、事前に担当の歯科医師からインプラントの種類や埋め込んだ場所を確認しておき、空港で伝えられるようにしておくとよいでしょう。証明書や診断書は必要はないので、明確に情報を伝えられることを意識してください。
ですが、日本よりもチェックが厳しい海外の空港で搭乗を予定している場合、口頭での説明だけでは認められない可能性もあります。そのときは、インプラントが埋入されていることを証明できる証明書や診断書があると安心かもしれません。
③飛行中に歯が痛くなったら?
上記で述べたとおり、飛行機が上昇することで歯が痛むのは、歯の内部にある「歯髄腔(しずいくう)」という歯の神経や血管の通っている空間における気圧差が変化するためだと考えられています。
また、飛行機が下降するときにも歯髄腔内の空気が収縮し、痛みを感じる場合があります。こうした歯の痛みを「航空性歯痛」といい、上下移動が激しいスキューバダイビングや登山でも同様の痛みを感じることがあります。
飛行中に痛みがひどくなったら、我慢せずにキャビンアテンダントやスタッフに伝えてください。飛行機によっては鎮痛剤を用意していることがあるので、服用して歯の痛みを軽減させましょう。
航空性歯痛は、通常は健康な歯では発生しません。そのため、飛行中に歯が痛くなった場合はそのまま放置せず、歯科医院で検査を受けることをおすすめします。また、虫歯や歯根嚢胞が事前にわかっている場合は、搭乗する前に治療しておくとよいでしょう。飛行中に痛みが出る可能性を軽減できます。
上の歯が全体的に痛むというケースでは、鼻の近くにある「上顎洞」という空洞が原因となっている可能性があります。片方のみ黄色い鼻水が出ていれば、歯の由来の蓄膿症である可能性があります。歯科医院だけでなく、耳鼻咽頭科での診察も必要な場合があります。
歯の健康に問題がある場合は、搭乗予定がある際に気を付けなければなりません。普段から検診を受けて健康状態を確認し、飛行機に乗る機会に備えておきましょう。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Natureに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。