■目次
入れ歯を磁石で固定する方法
磁石式義歯(マグネットデンチャー)
磁石式義歯(マグネットデンチャー)とは、インプラントや歯の根っこ土台として利用し、入れ歯を磁石の力により固定する治療法です。
磁石アタッチメントデンチャー、磁性アタッチメントデンチャーとも呼ばれています。
自分自身の歯の根が残っている方は歯根に「磁性ステンレス」を取り付けます。
歯が残っていない方はインプラントを埋め込み、歯茎から露出させた一部分に「磁性ステンレス」を取り付けます。
「磁性ステンレス」とは、磁石を吸着させる金属(ステンレス)のことで、キーパとも呼ばれます。
入れ歯側には小型の高性能磁石を埋め込み、磁性ステンレスと磁石の吸着力で、入れ歯をぴったりと固定することができます。
【磁石式入れ歯のメリット】
・見た目が自然
・入れ歯特有の違和感がほとんどない
・体への負担が少ない
・インプラントを埋め込む本数が少なくすむ
・治療費を安く抑えることができる
・入れ歯なので簡単に着脱ができる
・清掃やメンテナンスが行いやすい
・入れ歯を作り変えも簡単にできる
・強い負荷がかかると入れ歯が外れるため、歯根やインプラントに負荷がかかりすぎない
【磁石式入れ歯のデメリット】
・公的医療保険が適用されない
・MRIの撮影は主治医への相談が必要(処置が必要になる場合もある)
・磁気アレルギーの方は使用できない
*MRI撮影時、入れ歯を取り外して対応する所も多い。また、MRI撮影前に同意書記載を求められることもあります。
治療の流れ
STEP1 診断
患者さんからのヒアリング(問診)、口腔内視診、レントゲン検査などお口の中の検査と診断を行います。
インプラントを埋め込む外科手術が必要な場合は、全身疾患の有無や現病歴、既往歴などについても確認します。
STEP2 磁性ステンレスの取り付け
自分自身の歯根が残存している患者さん…歯根に磁石と吸着するための磁性金属を取り付けます。被せ物を被せている歯であれば、被せ物を取り除きます。
自分自身の歯がすべてない患者さん…インプラント(人工歯根)を埋め込み、インプラントに磁性金属を取り付けます。
既にインプラントが埋め込んである場合は、人工歯とインプラント体をつなぐアタッチメントを取り外し、磁性金属(マグネットアタッチメント)へ入れ替えます。
インプラントを埋め込む外科手術を行う場合は、インプラントが安定してから磁性金属を取り付けることが一般的です。
STEP3 入れ歯の製作
入れ歯を製作し、入れ歯側に超小型磁石を埋め込みます。磁石と磁性金属の吸着力で入れ歯が固定されます。
入れ歯の吸着具合、粘膜(歯茎)との接触の程度、噛み合わせなどを調整します。
STEP4 アフターケア
より長く快適な状態でご使用いただくために、歯科医師の指示に従って定期的にメンテナンスを受けます。
定期的にメンテナンスを受けることで自分自身の歯根、インプラント、入れ歯を長く使用することができる可能性が高まります。
マグネットデンチャーは介護にも適しています
マグネットデンチャーは、簡単に取り外しができる上に入れ歯が安定するため、介護が必要な方にも適しています。
高齢者や要介護者、特に認知症の患者さんは入れ歯が安定していない場合、食事をとらない、お口を開けない、入れ歯を捨ててしまう、歯科医師の診察を拒否するなどの行動をとることがあります。入れ歯を入れることによって痛みがあっても入れ歯を外すことを拒否することもあります。
また、ご自身で歯磨きができない場合、日々の食べかすやプラークが溜まることによってお口の中の状態が悪化してしまい、より入れ歯が合わなくなったり、誤嚥性肺炎を引き起こす原因となります。
マグネットデンチャーであれば、入れ歯がぴったりと安定しているため痛みが起きにくく、痛みによる入れ歯や食事の拒否を減らすことが期待できます。
痛みなく食事をとることができれば、栄養不足を防ぎ、そのほかの合併症の発症リスクや身体の衰弱を軽減できると考えられています。
また、介護者によって痛みなく入れ歯を取り外すことが簡単にできるため、ていねいなお口の中のケアを行える可能性が高まります。
お口の中の清潔を保つことによって誤嚥性肺炎の予防へもつながります。
今後介護が必要になりそうな方が入れ歯を使用している場合、通院が可能な間に歯科医院へ通院し、インプラントオーバーデンチャー(インプラント4本を土台の総入れ歯)やマグネットデンチャーへ変更しておくことでお口の中をケアしやすい状態となり、介護者の負担を軽減することができるかもしれませんね。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Natureに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。