■目次
歯科医院側の問題で起こるインプラント治療のトラブルの原因と対策
失った歯を補う治療方法には「ブリッジ」・「入れ歯」・「インプラント」といった補綴(ほてつ)治療があります。
その中でも、インプラントは、かつての自身の歯のように機能する(噛める)だけではなく、入れ歯やブリッジとは異なり周囲の歯に負担をかけない大きな特長を持っています。近年、インプラント治療に使われる材料の品質や治療技術そのものが大きく向上し、見た目を改善するだけではなく、早期に噛める術式が普及し、インプラント治療を受けられる方が年々増加している傾向にあります。
しかし、現状としてインプラント治療を受けたごく一部の方が、治療後に何らかのトラブルに遭遇しています。
何故トラブルが起こってしまったのか、ここでは歯科医院側の問題で起こるトラブルの原因と対策についてご紹介します。
トラブル1 インプラント周囲の歯・歯周組織が傷ついた
【例】動脈損傷による大量出血、周囲の歯や歯槽骨などの歯周組織にインプラントが当たってしまったことによる炎症、施術中の不手際による顎骨壊死、術後の神経麻痺など
<考えられる原因>
・不十分な術前検査
・不適切な診断
・歯科医師の経験不足
など
<患者側でできる対策>
インプラントを埋め入れたことによって起こるトラブルを軽減するために
術前にCT撮影を必ず行う歯科医院を選択するとよいでしょう。
CT撮影は、神経や血管の走行位置や骨の厚みなどが分かり、従来の平面のレントゲン(パノラマやデンタル)では分からない部分を把握することができます。立体的にインプラントを埋める方向を決定できるため、周りの歯や組織の損傷を防ぐことができるでしょう。
・治療経験について
疑問があれば、担当医に率直に聞いたり、過去に行ったインプラント治療の症例写真や模型などによる説明を求めるとよいでしょう。似たような治療例を見ることで、治療への不安が少なくなるでしょう。
・診断について
インプラント治療に関係する学会やスタディグループに属し、治療技術や最新情報を得ているかどうかを、ホームページや院内の掲示物を確認するのも参考になります。ただし、学会に所属しているからといってインプラント治療が上手であることは断言できません。
⇒インプラント治療で使用されるレントゲンの種類
⇒インプラント学会について
トラブル2 インプラントが骨と結合しない
【例】インプラントが浮いてしっかり噛めない、抜け落ちた、折れたなど
<考えられる原因>
お口全体のことを考慮せずに治療を行った、インプラントに対する異物反応など
<患者様側でできる対策>
治療を行う箇所の説明だけではなく、お口全体のことを丁寧に説明・検査してくれる歯科医師を選択するとよいでしょう。
歯並びや噛み合わせの状態が悪いと、インプラントや周囲の歯のどちらかに負担がかかってしまい、お口のトラブルを起こしやすくなることが考えられます。
また、お口の中に歯周病菌が多いと、インプラント周囲炎・インプラント周囲炎になり、インプラントを埋めてもすぐに抜け落ちてしまう可能性があります。
歯周病の治療を受けてからインプラント治療を行うことが望ましいとされていますので、歯周病の検査や治療法についてもきちんと説明のあるところを選ぶとよいでしょう。
⇒インプラント歯科医院選びのポイント
トラブル3 感染対策の不備によりインプラントが感染
【例】インプラントの使い回し、器具の洗浄が適切に行われていない、など
<考えられる原因>
歯科医院全体の感染対策の不行き届き
<患者様側でできる対策>
インプラント治療は骨の中に埋め込む手術を行いますので、感染対策ができていなければ、細菌によって感染を起こす可能性があります。
感染対策について判断したい場合は、患者の前で歯科医師や歯科衛生士が手袋をつけたりはずしたりしているかどうかや、一般の治療器具が血液や歯科材料などで汚れていないか、院内が清潔に整えられているかどうかを参考にするとよいでしょう。HPで滅菌器を使用していることをアピールしている歯科医院もあります。
患者様側が防げるインプラント治療のトラブルと対策
インプラントの品質や治療技術の向上から、普及しているインプラント治療ですが、ごく一部の方が治療後に何らかのトラブルに遭遇する問題が起きています。
ここでは何故トラブルが起こってしまったのか、患者側の問題で起こるトラブルの原因と対策についてご紹介します。
トラブル1 お薬の副作用やアレルギー
【例】既往歴や、服用薬、アレルギーを伝え忘れたため身体の状態が悪くなった
<患者側でできる対策>
歯の治療とはいえ、外科手術を行ったり、服用する薬があったり、場合によっては静脈内鎮静を行うことがあります。
その際に、全身疾患や、服用薬、アレルギーなどがあると、インプラント治療を開始したことにより全身状態に影響がでることがあります。
また、現在かかっている病気だけでなく、過去にかかった病気の治療でも影響がでることがあります。
そのため、お身体の状態については、すべて伝えるようにしましょう。服用薬があれば、お薬を受け取る時に付属している説明書、もしくはお薬自体を歯科へ持っていきましょう。服用するお薬と重複していないか、飲み合わせが悪くないかなどの確認に役立ちます。
トラブル2 治療結果に満足できない
【例】自分が思っていた仕上がりではない、治療内容を理解せずに承諾してしまった、など
<患者側でできる対策>
コミュニケーション不足が考えられます。
患者自身の悩みや日常の問題点などの情報は、歯科医師が治療方法を検討する大きな判断材料となりますので、きちんと伝えるようにしましょう。
また、どのような治療でも、診断結果や治療方法について理解をせずに承諾することはやめましょう。どのような治療でもメリット・デメリットがあります。しっかりと確認して治療を受ければ、治療結果への不満もなくなるでしょう。
担当の歯科医師と話しがかみ合わない、または話し合っても不安が軽減できない場合は「セカンドオピニオン」をとることを検討するとよいでしょう。これは、主治医以外の歯科医師から、診断や治療方法などの意見を改めて聞く方法です。歯科医師によって見解が異なることは少なくありませんが、主治医と見解が同じ場合には、改めて信頼関係を築くことにもつながるでしょう。ただし、新たな歯科へ行くとなると、別途費用が必要となりますので、依然として問題の改善や不安が消えない場合に考えましょう。
トラブル3 自己管理不足によりインプラント周囲炎になった
【例】毎日のブラッシングを怠った、またはメインテナンスに行かなかったなどで炎症を起こしたり、抜け落ちたりした、など
<患者側でできる対策>
適切な治療を受けていても、歯科医師や衛生士の指示を守らなければ、早期にインプラントが抜け落ちてしまうこともあります。
ブラッシングが難しいなどの問題点があれば相談して、お口や生活環境に合わせたブラッシングを教わり、歯の健康を守りましょう。
どうしても丁寧に磨くことが難しい方は、定期的なメインテナンスの間隔を短くしてもらうのも一つの方法でしょう。
⇒インプラント周囲炎 注意!インプラントが抜けることも
万が一のアクシデントには!?
治療中や治療後に、誤って石などの硬い物を噛んでしまった、顔面を打撲したなどのアクシデントが発生したら、まずは歯科医師に連絡しましょう。
部分的に損傷していた場合に、放っておくと、噛み合わせが変わったり、炎症が強くなったりして、インプラントや周囲の歯に悪影響を及ぼすことも考えられます。
インプラント治療のトラブルによる負担を軽減するために
このように、インプラント治療では、トラブルが発生することもある治療です。そのため、トラブルが生じた際に、無料もしくは患者が治療費の一部を負担して、治療のやり直しを行う「保証制度」を付与している歯科医院が増えてきています。万が一に備えたい方は、保証制度を取り入れている歯科医院で治療を検討されるとよいでしょう。保証内容に関しては、歯科医院や提携している保証会社によって異なりますので、よく確認しましょう。
⇒インプラントの保証制度
まとめ
インプラント治療を受けて満足している方も多くいらっしゃいます。
歯科医師や衛生士の説明を聞き、納得したうえで、インプラント治療に臨みましょう。なお、インプラント治療は自由診療(医療保険適用外)ですので、歯科医師(歯科医院)が独自に決めた治療方法や費用になります。
自由診療には、標準的な治療方法が定められていないのが現状ですので、万が一に備えて、治療計画書や費用総額の見積もりなどは書面をもって契約されることを強くお勧めします。
⇒インプラント治療の費用相場まとめ 見積書を受け取ったらすること
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。