■目次
Q.手術後の医院でのケアは高いんでしょうか
A.インプラントに関するケアは公的医療保険が適用されないため、自費診療となり、歯科医院によって金額が異なります。
手術を受ける前に、インプラント治療後のメンテナンスの費用を確認しておきましょう。
インプラント治療を受けた以外の歯は、公的医療保険を適用して治療を受けることができます。公的医療保険を適用した治療を選択すれば、費用が高額になることは避けられます。
セルフケアとプロフェッショナルケア
自分の家で患者さん自身で行うセルフケアと、歯科医院で歯科医師や歯科衛生士が行うプロフェッショナルケアは、インプラントの手術後、インプラントを長く持たせるためにとても重要になってきます。
セルフケア
インプラントのセルフケアとしてはやはり毎日の歯磨きが大切です。
普段から歯磨きの習慣が無い人や、毎日歯磨きをしているけれど虫歯になる人など、歯磨きの習慣についてはさまざまな患者さんがいらっしゃると思います。
まず、歯磨きにおいて重要なのは歯垢(プラーク)や食べかすを残さないことです。
歯垢や食べかすがお口の中に残っていると、菌の繁殖の原因や歯石の原因となります。
また、インプラントは人工歯を被せているため、歯茎と人工歯、インプラント体との堺に隙間があります。隙間にプラークや食べかすが残っていると歯茎が炎症を起こしたり、インプラント周囲炎につながる大きな原因となります。
プロフェッショナルケア
インプラントのプロフェッショナルケアとは、いわゆる歯科医院で歯科医師や歯科衛生士から受けるメンテナンスです。超音波の出る機械やスケーラーと呼ばれる器具で歯石を取り除くほか、人工歯と歯茎、インプラント体の隙間のお掃除を行ったり、インプラント周囲炎にかかっていないかの検査、噛み合わせの確認など、さまざまなチェックを行います。
汚れが多く溜まっている場合は、毎日のセルフケアを効果的に行うための指導(TBI:Tooth Brushing Instruction)を行い、インプラントを長持ちさせることができるようにしていきます。
インプラント治療を受ける際に契約する、「インプラントがぐらつく」「インプラント周囲炎にかかってインプラントがダメになってしまった」場合などに備えた「インプラント保証」は、歯科医院での定期的なメンテナンスを受けていることが保証を受ける条件とされている場合もあります。
歯ブラシ以外のセルフケアグッズ
患者さんのセルフケアでは通常の歯ブラシを使うほかに、歯間ブラシやデンタルフロスといった、歯ブラシでは届かない部分をお掃除するための補助用具があります。歯ブラシだけでは汚れを全て落とすことは難しいので、積極的に活用しましょう。歯間ブラシやデンタルフロスなどを使ってお口の隅々まで歯垢を取り除くことがインプラントを長持ちさせるコツです。
使ったことがない、または毎日使う習慣がない場合は一度のケアに少し時間がかかってしまうことがありますが、隅々まで汚れを取り除くことが重要です。まずは慣れるためにも短時間でも良いので使用しましょう。
お口の中は繋がっており、インプラントの周りだけきれいにお掃除をしても、ほかの部分に菌が残っていたら菌は移動してインプラントの周りにも付着します。お口の中全体をきれいにすることを意識しましょう。
また、インプラントの被せ物(人工歯)の周りだけお掃除しても、インプラントと歯茎の隙間に汚れが残っていたら、そこから歯茎が炎症を起こし、インプラントに影響を及ぼします(インプラント周囲炎といいます)。
歯間ブラシを使うポイント
インプラントの周りに歯間ブラシを使う場合、金属の軸のある歯間ブラシを使う際には注意が必要です。
金属の軸がインプラントを強くこすってしまったり、軸の先端でインプラントに傷を付けてしまうと傷に汚れや菌が溜まり、取り除くことが困難になります。
歯間ブラシにはゴムやシリコンを使用したものや、金属の部分をプラスチックでコーティングしたものなどもありますので、歯間ブラシに慣れていない方は傷を付けにくい歯間ブラシを使ってみましょう。
また、不安な場合は担当の歯科医師・歯科衛生士に相談して適している歯間ブラシを紹介してもらう、歯間ブラシの使い方を指導してもらうとよいでしょう。
スーパーフロスとは
インプラント治療を受けた後、歯科医師や歯科衛生士からインプラント周りをケアするための補助用具として「スーパーフロス」をすすめられる場合があります。
スーパーフロスとはいわゆる糸ようじやフロスと呼ばれる歯と歯の間に通して汚れを取り除くケア用品にスポンジがついたものです。
スポンジ部分がインプラント体や人工歯と歯茎の間に入り込むことで、歯垢や食べかすを取り除くことができます。スポンジのため、インプラントを傷付けてしまう心配もありません。ただし、自分自身の歯と歯の間に無理に押し込むと歯茎を傷つけてしまう原因となりますので、隙間が大きく開いている部分への使用をおすすめします。
歯と歯の間にある三角の隙間からスーパーフロスの先端を差し込み、スポンジ部分で汚れを取り除きます。スーパーフロスはフロスの端が固められており、歯と歯の隙間に通しやすくなっています。難しい場合は「フロススレッダー」と呼ばれる、フロスを簡単に通すための糸通しのようなものもありますので、歯科医師や歯科衛生士に相談、確認をしてみましょう。
歯磨き粉を使うときの注意点
インプラント体の素材で多く使われているチタンはフッ素で腐食するといわれています。
フッ素は歯磨き粉やデンタルリンス、マウスウォッシュに含まれているため、インプラントにはフッ素入りの歯磨き粉やデンタルリンスを使用してはいけないといわれてきました。
しかし近年、フッ素入りの歯磨き粉やデンタルリンスなどを使っても、お口の中に残るフッ素はわずかであるため、インプラントが腐食するほどの効果はないという報告がされています。また、ある研究結果によると、フッ素がチタンを腐食する時にはpH(水素イオン濃度)も大きく関係しており、同じ濃度のフッ素をチタンに付着させるとpHが酸性の環境ではチタンが腐食し、中性に近い環境ではチタンは腐食しないという結果が出ています。
(参考:口腔衛生会誌 J Dent Hlth 66: 308-315, 2016(2020.11.05))
歯垢が多量に付く、唾液の量の減少などによりお口の中が酸性に傾いているときはフッ素入りの歯磨き粉やデンタルリンスなどを使ってしまうと腐食の可能性がありますが、お口の中は唾液によって中性に保たれるため、基本的には問題がないといえるのではないでしょうか。
しかし、フッ素入りの歯磨き粉やデンタルリンスは使うとインプラントの保証を受けられない、何かあった時に治療を受けた歯科医院で対応してもらえなくなる可能性もあります。
治療を受けた歯科医院に相談し、お口に適した歯磨き粉やデンタルリンスを使いましょう。
電動歯ブラシ
通常の手で動かして歯を磨く歯ブラシの代わりに、電動歯ブラシを使ってみてはいかがでしょうか。
電動歯ブラシは、短時間で効率的に歯磨きができる清掃用具です。
歯ブラシが細かく振動するため、手を動かすことではなく、歯ブラシの毛先が歯の面に当たっているかどうかに集中して歯磨きを行うことができます。
また、電動歯ブラシには大きく分けて3つの種類に分けることができます。
①電動歯ブラシ
②音波歯ブラシ
③超音波歯ブラシ
①電動歯ブラシ
いわゆるブラシ部分の振動や回転によって歯垢を除去する歯ブラシです。ブラシの毛先が当たっている部分の歯垢を擦ることによって物理的に除去します。
振動数はおよそ2000~10,000回/分程度です。音波歯ブラシや超音波歯ブラシと記載されていない電動歯ブラシはこの①のタイプの電動歯ブラシがほとんどです。3種類の中で比較的安価で購入することができます。
②の音波歯ブラシ
①の電動歯ブラシに音波の効果を付与することによってブラシ部分の動きのほかに毛先の高速振動を可能にしています。振動数はおよそ20,000~40,000回/分程度です。
高速振動により唾液や水分の泡を発生させ、ブラシが当たっていない部分約2㎜の範囲にある歯垢を取り除く効果があります。そのため、歯と歯茎の境目や歯と歯の間など、ブラシが届かない部分の清掃効果が期待されます。
また、発生する音波によって細菌同士がくっつくための線毛という部分を破壊することができます。
③超音波歯ブラシ
ブラシ部分に超音波発生装置が付与されています。
超音波を発生させることで、歯の表面に付着した歯垢のくっつく力を弱め、取り除きやすくする効果があります。超音波歯ブラシの振動数はおよそ1,600,000回/秒程度です。
音波ブラシ同様、細菌の線毛を破壊することで細菌同士の繋がりを断てるほか、超音波歯ブラシは「不溶性グルカン」を取り除くことができます。
「不溶性グルカン」とは、虫歯菌が作り出す非常に粘着性の高い物質であり、歯に強固に付着します。粘着性が高いため細菌を歯面に付着させやすくする性質があり、除去することによって歯を守ることができます。
また、超音波は骨や皮膚の創傷治癒を促進したり、歯周組織の細胞を活性化させる効果があると期待されています。
ただし、超音波歯ブラシは電動歯ブラシや音波ブラシとは異なり、歯面を擦る動きが付与されていない場合が多いため、通常の歯ブラシと同じように自分自身で動かし、歯垢を取り除くことが必要となります。
こうしたメンテナンスによって歯周病、歯槽膿漏やインプラント周囲炎を予防します。
歯周病やインプラント周囲炎にかかると、歯茎が炎症を起こして歯やインプラントを支えている骨(歯槽骨)が溶けてしまい、インプラントが抜けてしまうことがあります。
毎日のケアと定期健診を怠らずに習慣付けていきましょう。
定期検診に行こう!
インプラントを埋め込む手術が完了しても、インプラント治療は終わりません。
骨の中に埋め込んだインプラント体と骨との結合は埋め込んだ時からはじまり、数ヵ月間かかります。人工歯を付ける前に治癒期間を設けることもありますが、実際にインプラント体と骨がしっかりと結合するのには長い時間がかかるのです。
そのため、特に最初の1年は歯科医師の指示に従ってこまめに検診を受けに行きましょう。
検診では、骨とチタンが無事に結合しているかどうかのほかにも、インプラントの周りの歯茎や骨に炎症が起きていないかどうかレントゲンを撮影して確認したり、お口の中の衛生状態の確認、噛み合わせに問題がないかどうかなどもチェックします。
頻繁にメンテナンスに行くことで、万が一異常が発見されても早いうちに処置が出来るため、インプラントがぐらついたり抜けたりする最悪の事態を避ける可能性が高まります。
しかし、定期メンテナンスに通う習慣が無かったり、忘れてしまったりすることもあるでしょう。
検診は数ヵ月先の予定になることもありますが、検診の度に次回の予約をとっておくことで忘れずに通院できるかもしれません。
歯科医院によっては定期的に検診の案内を送付している場合もあります。もしも届いたら予約をして必ず医院へ行きましょう。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。