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口腔内トラブルと全身の健康状態の関係性
口腔内に何らかのトラブルが発生した場合、、身体全体にも何らかの影響が起こる可能性が出てきます。この項目では、口腔内におけるトラブルの代表例である、歯周病と噛み合わせの悪化の2つによってもたらされる、さまざまな悪影響を詳しく解説します。
歯周病との関係性
歯周病は細菌感染によって口腔内に炎症が発生し、歯肉(歯ぐき)や歯を支える骨が溶けてしまう病気です。初期症状では歯肉に腫れや出血が生じますが、症状の進行に伴って歯が動揺し始め、最終的には抜歯が必要になる可能性も出ます。
歯周病の主な原因は、口腔内に溜まる歯垢や歯石といった細菌の塊です。しかし、これから紹介する7種類の生活習慣病や全身疾患も、歯周病との間に関連性があると考えられています。
肥満
肥満とは、単に体重が多いというだけではなく、過剰な体脂肪が蓄積されてしまっている状態のことを指します。具体的には、体重を身長の二乗で割って求める「BMI」が25以上の値になっている状態が肥満という定義がなされています。
肥満の状態に陥ると、糖尿病、高血圧症、動脈硬化を含む心血管疾患といった、生活習慣病を引き起こす原因となり、身体全体に対して大きな悪影響を及ぼします。さらに、糖尿病や動脈硬化などを発症すると歯周病のリスクも高まってしまうため、肥満は歯周病進行につながります。
心臓疾患
心臓疾患とは、心臓に発生する病気の総称です。主な症例としては、心臓に血液を送る冠動脈が動脈硬化によって狭まり、胸に圧迫感を感じたり痛みが生じてしまう「狭心症」や、動脈が完全に詰まり生命の危機につながる可能性もある「心筋梗塞」などが挙げられます。
歯周病になると、歯肉から血管に歯周病菌が流れ込むことになります。歯周病菌が持つ毒素の中には動脈硬化を誘発するものもあるため、血管が詰まるリスクが増大します。すなわち、歯周病に罹患してしまうと、各種の心臓疾患が起こる可能性が高まることになるのです。
参考:滋賀医科大学医学部附属病院
糖尿病
糖尿病とは、血糖値を低下させる働きを持つインスリンの機能低下で血糖値のコントロールが困難になり、慢性的に血糖値が高くなっている状態を指します。糖尿病の人は歯周病を促進させる可能性が高まるという研究結果も出ていることから、歯周病は糖尿病の合併症の一つであると認識されています。
歯周病菌が持つ毒素の中にはインスリンの働きを妨害するものがあるため、それらの毒素が血管を通じて全身に流れ込むと、糖尿病を発症する可能性も高めてしまいます。一方で、歯周病の治療により血糖値低下や糖尿病の症状改善につながるという研究成果もあるため、歯周病と糖尿病の間には密接な関係があると考えられています。
参考:国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター
脳梗塞
脳梗塞は、脳の血管が詰まることにより、脳に酸素や栄養が行き渡らなくなってしまう病気です。脳梗塞は脳細胞の死滅を招き、後遺症が出ます。最悪の場合は生命の危機に陥る可能性もある非常に危険な病気であり、高血圧や中性脂肪が高い人の場合は発症リスクが高くなると考えられています。
歯周病菌が持つ毒素は血管を詰まらせる働きを持つため、脳に血液を送る血管が毒素の影響で閉塞すると、脳梗塞が発生する可能性が高まります。そのため、心臓疾患のケースと同様に、歯周病への罹患は脳梗塞を発生させるリスクも高めてしまいます。
誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
誤嚥性肺炎とは、食べ物や異物が気管や肺に入り込んでしまい、その際に混入した口腔内細菌によって発症する肺炎のことを指します。異物が気管や肺に入りそうになった場合、咳をすることによって排出する機能を持ちます。しかし、この機能は年齢によって低下していくため、誤嚥性肺炎は高齢者の発生例が多い病気です。
誤嚥性肺炎を引き起こしている細菌の多くは歯周病菌であると考えられています。そのため、歯周病の人は、誤嚥性肺炎のリスクも高まります。とりわけ、高齢者は身体の免疫力が低下しているため、誤嚥性肺炎に対する注意が必要です。
参考:日本臨床歯周病学会
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)
骨粗鬆症とは、骨の強度が低下して骨がもろくなり、骨折しやすくなってしまう症状のことを指します。日本における発症者の90%が女性であり、卵巣機能が低下すると骨の代謝にかかわる女性ホルモンの分泌が低下するため、特に閉経後の高齢の女性が発症するケースが多いとされています。
骨粗鬆症によって全身の骨がもろくなると、歯を支える顎骨の密度も低下して歯周炎を促進することにもつながります。
参考:日本臨床歯科学会
早産・低体重児出産
早産と低体重児出産は、赤ちゃんが予定よりも早く産まれてしまったり、体重が低い状態で産まれることです。妊娠中に増加するエストロゲンという女性ホルモンは、歯周病の原因となる細菌の増殖を促す働きを持ちます。妊娠中の女性は歯肉炎や歯周病にかかりやすいとされています。
さらに、歯周病に罹患すると口腔内の歯周病菌が血管に流れ込み、胎盤を通して胎児に直接感染する可能性もあるとされています。そうした影響もあり、妊娠中の女性が歯周病に罹患してしまうと、早産・低体重児出産のリスクが高まってしまうと考えられています。
噛み合わせとの関係性
嚙み合わせの悪さは身体のバランスを歪めてしまうため、頭痛や肩こりといった症状につながり、全身に対して悪影響を及ぼす可能性があります。また、貧血や目まい、寝起きの悪さや倦怠感、手足の冷えや肌荒れ、鼻炎やアレルギーといった症状も、噛み合わせの影響で生じた身体の歪みに起因して引き起こされている恐れがあります。
さらに、出っ歯などで噛み合わせが悪いとお口を閉じることが難しくなり、お口が開いたままになるケースが多くなります。そのような状態に陥ると、お口の中が常に乾燥するようになり、口腔内における唾液の分泌量が低下します。唾液は虫歯や歯周病の原因となる細菌の繁殖を防ぐため、噛み合わせの悪化は歯周病の発生リスクを高めることにもつながります。
歯並びが悪いと歯磨きがしにくい箇所が多くなります。その影響で磨き残しが増えやすくなり、歯垢や歯石の増加にもつながります。こうした複数の理由によって、噛み合わせが悪い場合は歯周病が発生する可能性も増加し、さまざまな病気を引き起こすリスクを間接的に高めることに繋がります。
口腔内を健康に保つ方法
口腔内を健康に保つというのは、身体全体の健康を守ることにつながります。患者さん自身で行えるセルフケアは以下に挙げる3種類です。
よく噛んで食べる
ものをよく噛んで食べることによって、唾液の分泌量を増やすことができます。唾液には歯周病の原因となる細菌の繁殖を防ぐ効果があるため、ものをよく噛むことによって、歯周病を予防することにつながります。
また、よく噛むことによって満腹中枢を刺激し、食べ過ぎを防ぐ効果があります。さらに、脳内物質の働きが増して内臓脂肪の分解を促すことにもつながるため、ものをよく噛むことは肥満の防止にも効果を発揮します。
丁寧に歯磨きをする
丁寧な歯磨きによって歯垢や歯石を取り除くことは、いわば歯周病予防の基本です。具体的な歯磨きの改善方法は、歯の外側を磨く際には毛先を直角となるかたちで歯に当て、内側(歯と歯茎の間)を磨く場合は上から斜め45度になる角度でブラシを歯に当てながら、それぞれ軽めの力で小刻みに動かしていくと効果的です。
加えて、歯磨きだけでは取れない箇所にある汚れを除去するために、デンタルフロスや歯間ブラシといった器具を使うと口腔内をより清潔に保つことができます。歯周病が進行している場合は歯と歯の間の隙間(ブラックトライアングル)が大きくなりやすくなるため、歯間ブラシを使ってその隙間を掃除し、歯垢や歯石を取り除くとよいでしょう。
禁煙する
たばこに含まれる有害物質には、血管を収縮して酸素の運搬を妨害する働きがあります。それによって歯肉に酸素が行き渡らなくなると、歯周ポケットにおける歯周病菌の増殖につながります。さらに、喫煙による血管収縮は歯肉からの出血や炎症を抑えてしまうため、歯周病の自覚症状が乏しくなり、発症に気付きにくくなります。
喫煙は歯周病の進行を促すことに加えて、歯周病治療の効果も低下させ、処置を行った後の治りも非喫煙者に比べて遅くなる傾向にあります。喫煙という行為自体が歯周病の病態を悪化させてしまうこともあり、喫煙者に対しては歯周病治療と並行して禁煙指導を行うケースが多くなっています。
参考:日本臨床歯周病学会
まとめ
歯周病や噛み合わせの悪さが発生すると、全身の健康状態に悪影響が及ぶ恐れが出てきます。歯周病は肥満、心臓疾患、糖尿病などの症状と関係性があり、噛み合わせの悪さは磨きにくさにより歯周病を引き起こしやすい状態を招いたり、頭痛や肩こりなどにつながる可能性があるため、いずれも大きな注意が必要になります。
ものをよく噛んで食べたり、日頃の歯磨きを丁寧に行うことで口腔内の環境を良好に保つことはできますが、セルフケアだけでは口腔内を健康に保つのは限界があります。お口の状態を良好に保ちたいのであれば、定期的に歯科医院で検診を受け、プロフェッショナルケアをしてもらうといいかもしれません。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開