インプラントの人工歯が身体に与える影響と起こり得るトラブルとは

失った歯の機能や見た目を回復することができるインプラント治療ですが、インプラント治療の経過によっては身体にさまざまな影響を及ぼします。また、インプラントの人工歯の誤った調整によって起こる噛み合わせの不都合やトラブルについてご紹介します。

更新日:2020/12/25

■目次

  1. インプラント補綴が体に与える良い面と起こりえる悪い面
  2. インプラント治療で噛み合わせを取り戻すことの重要性
  3. 上部構造がインプラント体に与える影響
  4. 噛み合わせの不具合が起こすトラブル

インプラント補綴が体に与える良い面と起こりえる悪い面

身体の欠損した部分を人工物で補うことを「補綴[ ほてつ ]」と呼ぶことから、歯科での被せ物や入れ歯によって失った歯の一部、あるいは失った歯の機能を補う治療を「補綴歯科」と呼びます。
その中でも、失った歯の機能や見た目を回復することができる治療の一つであるインプラント治療は「インプラント補綴」とも呼ばれています。

インプラントは、顎の骨に埋め入込む「インプラント体(人工歯根・下部構造)」と、失った歯の代わりとなる「 上部構造 (人工歯)」、インプラント体と上部構造を連結する「 アバットメント 」の3つのパーツで構成されており、失った歯の機能や見た目を回復することができます。

>>補綴[ほてつ]歯科とは

インプラント治療で重要となる、歯の機能の回復や噛み合わせは「上部構造」に大きく関わっています。
上部構造がインプラント体に与える影響、起こりうるトラブルなどについてご紹介します。

インプラント治療で噛み合わせを取り戻すことの重要性

適切なインプラント治療を受けて、噛み合わせを回復することができれば、インプラントが「失った歯」と同じような機能を果たします。失った歯を補うことによって、お口だけでなく、全身の健康維持や健康増進につながってきます。

反対に、歯を失ったままにしていると、次のようなトラブルが起こる可能性があります。

■自分の歯(天然歯)が他に残っている場合
時間の経過とともに、噛み合う相手の歯が伸びてくる、失った歯の隣の歯が傾くなど、噛み合わせや歯並びのバランスに悪影響がでます。歯茎や骨に噛む刺激が加わらないことから、歯茎や骨が痩せてしまい、見た目にも影響が出てきます。
また、お口の周りのトラブルだけでなく、しっかり噛めないことから胃腸に負担がかかったり、噛む力のバランスが崩れたことが原因による肩こりや腰痛、頭痛などが起こることもあります。

■すべての歯がない場合
脳への血流が悪くなったり、力が入りづらくなったり、バランスがとりづらく転倒しやすくなったりします。人間はバランスを取るために上下の歯を噛み合わせるからです。

さらにしっかりと噛めないことから胃腸の負担が大きくなったり、食べられる食事が限られるため肉や魚などのタンパク質を中心とした栄養が摂取できず、炭水化物中心の食事に偏ることにより、栄養バランスが悪くなり全身にも悪影響が出ることが考えられます。
また、発音や発声がうまくできなくなるため人間関係やコミュニケーション、社会生活を営む上での問題が発生します。自宅に引き籠もりがちになり身体機能が益々減退する問題なども生じます。

上部構造がインプラント体に与える影響

自分の歯(天然歯)の周りには 歯根膜 と呼ばれる線維組織があり、歯と歯が噛み合ったときや、ものを噛んだ際にはクッションのような働きを担います。噛む力を調整・分散し、歯や顎の骨への過度な力を守っています。

一方で、インプラント体の周りには、歯根膜がありません。噛んだ力が顎の骨にダイレクトに伝わってしまうため、上部構造で噛む力を受け止めなければなりません。
また、歯根膜が無いため、噛む力をうまく調整する機能がありません。インプラント体に強い力がかかると、骨との結合が弱まりインプラントがぐらつく可能性があるほか、隙間から菌が入り込み、インプラント周囲炎を引き起こす原因ともなります。

インプラントの上部構造の噛み合わせの調整を誤ってしまうと、インプラント体だけでなく、インプラントを構成するどこかのパーツに大きく負担がかかり、インプラント破折などの悪影響をもたらすことになります。

このようなことから、上部構造を作製、または装着するときは、見た目だけではなく、噛み合わせのバランスを考えながら治療が進めることが大切です。インプラント部の噛み合わせを定期的にチェックしてもらいましょう。
仮に、インプラントを使っていて噛み合わせに違和感が出た場合は、早めに歯科医院へ相談しましょう。

天然歯とインプラントの周囲の構造
お口の状態は時間が経つにつれて少しずつ変わっていきます。
経年変化に応じた調整はインプラントを長持ちさせるための大切なポイントになります。
インプラント治療が一段落した後は、定期的に検診を受けて、お口の状態を歯科医師に確認してもらい、必要があれば調整を行うことが必要です。

噛み合わせの不具合が起こすトラブル

噛み合わせにトラブルが生じると、それぞれのパーツが破損してしまったり、インプラント体が顎から抜け落ちることがあります。その例をご紹介します。

トラブル例1
インプラント治療で使用するパーツには複数の種類がありますが、インプラント体・アバットメント・上部構造をそれぞれスクリュー(ネジ)で連結させるものが多く使われています。
このようなタイプは、各パーツの付け外しが簡単にできるというメリットがありますが、インプラントに強い力が加わってしまうと、それぞれのパーツに強い負荷が加わり、スクリューが緩んでしまうデメリットがあります。
ネジが緩んだ状態で使い続けると、噛み合わせがさらに変わってしまい、もっと強い力がそれぞれのパーツに加わってしまうことがあります。
力のかかる方向によってはネジがちぎれてしまい、修理が難しくなる場合もあります。
このような事態を避けるために、定期検診は必ず受けておきましょう。

トラブル例2
セラミック でできている上部構造で、スクリュー(ネジ)のための穴があるものは、インプラントにトラブルが起きた時に簡単に外せるメリットがありますが、穴がないものに比べ耐久性が劣るため、欠けたり割れたりする可能性が高いというデメリットがあります。
硬いものは噛まないように注意しましょう。

トラブル例3
インプラント治療を受けた歯科医院以外で歯科治療を受けることとなった場合、インプラント治療を行っていない歯科医師では、インプラントと治療した部位の噛み合わせの調整が不十分になることがあります。
噛み合わせの調整が不十分だと治療後にそれぞれのパーツに強い力がかかってしまうこともあります。
インプラント治療を受けた歯科医院以外で治療を受ける場合、その後インプラント治療を受けた歯科医院で噛み合わせのチェックを受けるようにしましょう。
遠方でどうしても通えないなど事情がある場合は、同じインプラント治療を行っている歯科医院で治療を受けるとよいでしょう。


>>治療後に起こりうる様々な症状 ~治療後半年以上~


インプラントは、残っている周りの歯を守りながら、噛み合わせ・歯並びのバランスを維持することができます。失った歯を回復させる方法は、インプラントのほかにブリッジや入れ歯といった治療方法があります。
インプラント治療は原則公的医療保険が適用されない自費診療のため高額ですが、ブリッジや入れ歯の場合、公的医療保険を適用して治療を受けることができます。
患者さんに合った治療を、担当の歯科医師とよく相談して選択しましょう。

記事監修

歯科医師 古川雄亮 先生

国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Natureに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。