インプラント治療の失敗例|失敗率は?失敗しない方法は?

「インプラント治療を受けようと思っているが、失敗する可能性があると聞いて不安に感じている。失敗すると、いったいどんなことが起きるの?」そのような疑問をお持ちの方はいませんか。 インプラント治療の失敗はインプラントの撤去や、歯周炎などによる脱落を意味します。今回、インプラント治療の失敗率や、治療前・治療中・治療後における具体的な失敗例、失敗を避けるための重要な4つのポイントについて、詳しく解説します。

更新日:2024/11/14

■目次

  1. インプラント治療が失敗する確率
  2. インプラント治療の失敗例
  3. インプラント治療前
  4. 歯科医院の選び方を間違った
  5. 健康状態に問題があった
  6. 骨の量や質が不足していた
  7. インプラント手術中
  8. インプラントが適切に埋め込まれなかった
  9. 顎の神経を傷つけた
  10. 骨造成が失敗した
  11. インプラント治療後
  12. 見た目が良くなかった
  13. インプラントと骨が結合しなかった
  14. インプラント周囲炎になった
  15. インプラントが破損した
  16. インプラント治療で失敗しないための方法
  17. 症例数が多い歯科医師を選ぶ
  18. 設備が充実している歯科医院を選ぶ
  19. セルフケアを怠らない
  20. 歯科医院での定期的なメンテナンスを欠かさない
  21. まとめ

インプラント治療が失敗する確率

インプラント治療における「成功」の基準として用いられることが多いのが、1998年にトロントで行われた会議において定義された以下の4つの項目です。

・患者と担当医の双方が、治療結果に満足している。
・インプラントの埋入後に、痛み・不快感・知覚の変化・感染の兆候などが生じていない。
・臨床的に診査した際に、連結されていない個々のインプラントが動揺を起こさない。
・機能開始から1年以降の経年的な垂直的骨吸収が、1年間で0.2mm以下である


インプラントの治療が失敗してしまう可能性は、およそ10%程度と考えられています。成功率が低い治療法ではありませんが、確実に成功するわけではない点については、治療を始める前に頭に入れておいた方がいいでしょう。


参考:厚生労働省委託事業「歯科保健医療情報収集等事業」

インプラント治療の失敗例

インプラント治療が失敗する原因は複数あり、失敗してしまうタイミングも多岐にわたります。この項目では、具体的なインプラントの失敗例について、「治療前」「治療中」「治療後」の3つに分類し、個別毎に詳しく紹介します。

インプラント治療前

インプラント治療の失敗は、インプラントを実際に埋め込む前の時点で発生することも少なくありません。インプラント治療の前に発生する可能性がある失敗例としては、主に以下の3つです。

歯科医院の選び方を間違った

インプラント治療の最中だけではなく、治療後のメンテナンスなども含めた長い期間にわたって、同じ歯科医院を受診します。そのため、最初に信頼に足る歯科医院を選択したか否かは、インプラント治療の成功率や満足度にも大きく関わります。

国民生活センターが2019年に公開した資料によると、「歯のインプラント手術を受けた医療機関を選んだ理由を教えてください。(複数回答)」という設問に対して、8.2%の人が「費用が安かった」と回答していました。治療費の安さだけを判断基準にするのではなく、インプラントの治療実績があり、信頼できる歯科医院を選ぶことが重要です。

参考:国民生活センター

健康状態に問題があった

インプラント治療は手術を伴うため、患者さんが全身に病気を持って健康状態に問題があるなどの場合は、そもそも手術自体ができないことがあります。具体的には、糖尿病、心疾患、腎不全、高血圧、肺炎、貧血、骨粗鬆症などの症状がある場合は、インプラント治療に伴うリスクが大きく高まります。

また、タバコに含まれるニコチンが血流や酸素の運搬を阻害し、手術後の骨結合を妨げてしまうため、喫煙はインプラント手術の成功率を低下させる大きな要因となります。加えて、飲酒やステロイド薬の服用も治療に悪影響を及ぼすため、禁煙や禁酒を成功させ、かつ手術前後は生活習慣に気を配らなくてはなりません。

参考:歯科インプラント治療指針 日本歯科医学会編

骨の量や質が不足していた

顎骨の量や質は、人によって大きく異なる部分です。そのため、顎骨の量がインプラント治療に必要となる水準に達していなかったり、骨の質が軟らかすぎる・硬すぎるといった理由によって、インプラントを埋めた後に脱落する可能性が高くなります。

骨の量が足りない場合は、「骨造成」と呼ばれる追加の手術を施して骨を補うことによって、インプラント治療が可能になるケースがあります。しかし、骨の質に関する問題があると抜本的な対処が難しいため、治療の方針や方法を代えざるを得なくなることが多くなります。

インプラント手術中

インプラント手術は歯科治療の中でも難易度が高いものであり、担当医には高い技術が求められます。場合によって手術中に重篤な失敗が発生する可能性があります。

インプラントが適切に埋め込まれなかった

インプラント手術を行う際に、隣の歯との間隔や、埋入する角度や深さをよく考えて、人工歯根を埋め込みます。もし、埋め込む際の角度や深さが適切でなかった場合は、本来埋入されるはずの骨の外にインプラントがはみ出て、骨と結合されなくなってしまう可能性があります。

そのような場合、インプラントが埋め込まれた部分の骨を切除して、適切な位置に移動させることも可能ですが、それには追加の手術が必要となるため、患者さんの負担も増大します。ただし、近年に入ってからはコンピュータデータを用いてガイドを作ることが可能なため、事前の準備次第で埋入ミスの可能性を大きく減らすことができます。

顎の神経を傷つけた

インプラント手術の際にミスが発生して、下の顎の中を通っている下歯槽神経を損傷した場合、唇やオトガイの麻痺が発生します。神経を傷つけただけで切断さえしていなければ最終的には改善していきますが、神経が治るまでにかかる時間は長く、1年以上にわたって麻痺が残るケースもあります。

神経を傷つけてしまった場合は、知覚検査やCTなどによる写真撮影を行い、麻痺の範囲や程度を確認し、インプラント体が神経に接触している場合は、除去します。加えて、長期の投薬や、歯科医院以外の医療機関で麻痺に対する治療を受けることも視野に入れなければなりません。

参考:歯科インプラント治療指針 日本歯科医学会編

骨造成が失敗した

顎骨の量が不足している場合は、インプラント手術の前や最中に骨造成と呼ばれる手術を行い、骨の量を補う必要が出てきます。しかし、骨造成は手術を担当する医師にとって難易度の高いものであり、骨造成手術が失敗に終わってしまう可能性もゼロではありません。

とりわけ、骨の高さを増すタイプの骨造成手術はより難易度が上がり、失敗するとインプラントを埋め込んだ後に抜け落ちてしまうリスクが生じます。骨造成という骨を追加する手術を受けたうえでインプラントが抜け落ちるという最悪の結末に至らないためにも、インプラント治療における実績を持つ歯科医院を選ぶことは重要になってきます。

インプラント治療後

インプラント手術が無事に終わったとしても、まだ安心するわけにはいきません。治療が終わった後に治療が失敗していたことが発覚するパターンや、治療後のケアが不十分だったことによって発生する失敗例など、4種類に分けて紹介します。

見た目が良くなかった

インプラントは他の選択肢に比べて治療費が高くなりやすい一方で、天然歯に近い見た目を実現できるため、審美面において非常に優れています。ただし、骨や歯肉のボリュームが足りない場合は、インプラントを入れた部分の歯が長く見えてしまい、結果的に審美面の問題を抱えてしまうケースもあります。

20年以上経過したインプラント患者のアンケート調査によると、インプラント治療に対する不満の理由として、3.4%の患者さんが「見た目が悪い」と回答しています。この結果は、インプラントの治療後に審美面に不満を抱える人が皆無ではないことを示すものであると考えられます。

参考:日本口腔インプラント学会

インプラントと骨が結合しなかった

顎の骨がインプラント体に使用されているチタンと結合することを、「オッセオインテグレーション」と呼びます。手術中にドリルがオーバーヒートを起こして骨が火傷して壊死したり、歯肉の治癒が早すぎてインプラントと骨の間に歯肉が入ってしまうと、このオッセオインテグレーションが失われる事態につながりまいます。

オッセオインテグレーションを喪失した場合のリカバリーは非常に難しく、インプラント体を除去しなければならないケースが多いです。インプラントと骨が結合しないケースは、インプラント治療の失敗の中でもとりわけ多いため、特に注意が必要なものです。


参考:歯科インプラント治療指針 日本歯科医学会編

インプラント周囲炎になった

インプラント体そのものが虫歯や歯周病になることはないものの、周囲にある歯周組織は注意が必要です。インプラントは天然歯に比べて細菌感染に弱く、炎症に対する抵抗力も低いため、一度細菌に感染すると歯周組織の状態が悪化しやすく、「インプラント周囲炎」と呼ばれる症状が生じるケースが多くなります。

インプラント周囲炎になると、インプラント体周囲にある骨が吸収されやすくなり、インプラントが不安定になったり、最終的には抜け落ちてしまう可能性もあります。インプラント周囲炎を避けるためにも、日頃からお口の中を清潔に保つことが重要です。

インプラントが破損した

使用インプラントが細い、薄いといった特徴を持っていたり、インプラントの上部構造にあたる人工歯を固定するスクリューが緩んだりすると、稀に人工歯が破損するケースがありきます。インプラント周囲炎の症状が進行することによって、インプラントの破損が起こる可能性もあります。

人工歯の破損が起こった場合、早めに処置を受けないとインプラント体そのものが折れたり、周囲の骨が吸収される危険があります。破損に対処するためには、人工歯をいったん外して修理したり、場合によっては人工歯を作り直す必要が生じます。

インプラント治療で失敗しないための方法

治療前後の双方において適切な行動を取ることによって、インプラント治療に失敗する可能性を低下させることが可能です。紹介する4つのポイントは、いずれもインプラント治療の成功率を上げます。

症例数が多い歯科医師を選ぶ

インプラントは他の歯科手術に比べて難易度が高く、骨造成を行う場合は特に高度な技術が必要です。そのため、担当医がインプラント治療に関する経験や知識を多く有しているか否かは、歯科医院を選ぶうえで非常に重要なポイントとなります。具体的には、事前にホームページなどで歯科医の症例数を確認することによって、治療経験の豊富さを把握できます。

また、学会や研修に参加して最新の技術や知識をアップデートし続けることも治療の精度に直結するため、歯科医院に在籍する医師が学会や研修に参加しているかを確認することも大事です。さらに、公益社団法人日本口腔インプラント学会が認定する「口腔インプラント専門医」という専門医資格の有無も、技術や知識を測るにあたって重要な指針となります。

設備が充実している歯科医院を選ぶ

充実した設備を備えた歯科医院を選ぶことは、安全にインプラント治療を受けるために重視すべきです。CT検査に対応できる歯科医院であれば、顎骨の状態を治療前に詳細に把握することによって、インプラントの埋入ミスを減らすことができます。CT設備の有無は、歯科医院を選ぶにあたって重視すべきです。

手術を受ける際に医院環境が清潔でない場合は、インプラント周囲炎などの感染を引き起こす可能性が高まります。CTなどの設備が充実しているか、医院の清掃が行き届いて清潔な環境が保たれているか、なども事前に確認しておくとよいでしょう。

セルフケアを怠らない

インプラントは虫歯にならないとはいえ、天然歯と同じく、日頃からセルフケアを行うことが大切です。それによって、インプラント周囲炎が発生する可能性を減らせるだけでなく、インプラントの寿命を伸ばし、破損などのリスクも抑えることができるからです。

具体的なセルフケアの方法としては、毎日の歯磨きを正しい磨き方で行うことに加えて、細かい部分の汚れを落とすために、デンタルフロスや歯間ブラシを使うとよいでしょう。せっかく埋め込んだインプラントの脱落や除去を避けるためにも、日頃からインプラントの表面についた汚れを丁寧に取り除いていくことを心がけていきましょう。

歯科医院での定期的なメンテナンスを欠かさない

お口の中には、どうしてもセルフケアだけでは落としきれない汚れも存在します。そのため、定期的に歯科医院に足を運んで検査とメンテナンスを受け、自分では落としきれない汚れに対応していくことも、インプラントを長持ちさせるうえで重要です。

2019年に国民生活センターが公開した資料によると、36.6%の人が治療後にインプラントのメインテナンスを受けていないと回答しました。歯科医院でのメンテナンスはインプラントの残存率を高め、トラブルの発生頻度を下げることにもつながるため、治療後も歯科医院に足を運び続け、お口の中の状態を良好に保てるようにしましょう。

参考:国民生活センター

まとめ

インプラント治療においては、治療前・手術中・治療後のいずれのタイミングにおいても、何かしらの問題が発生する可能性があります。インプラント治療で失敗すると、埋め込んだインプラントを撤去せざるを得なくなったり、インプラントが脱落する恐れが出てくるため、治療を行う前に、失敗する可能性を減らしておく必要があります。

インプラント治療の失敗を避けるための手段としては、症例数が多い歯科医師を選ぶ、治療前後にセルフケアをしっかりと行う、歯科医院での定期的なメンテナンスを欠かさず行う、といったものです。治療を受ける歯科医院の選択は非常に重要になるため、事前にホームページなどを確認したうえで、後悔のない選択をしていきましょう。

記事監修

歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開