日本歯周病学会60周年記念京都大会

伝統と革新 歯周病撲滅に向けて!

日本歯周病学会60周年記念京都大会日本歯周病学会60周年記念京都大会

日本歯周病学会60周年記念京都大会について

日本歯周病学会60周年記念京都大会が、2017年12月16日(土)~17日(日)の2日間、国際京都国立会館で開催されました。
会場には全国から、歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士など多くの医療従事者が集まりました。1日目、2日目とも気温が低く雪もチラつく中、スーツの上にコートと温かい服装で会場に足を運ばれました。

今回のテーマは「伝統と革新 歯周病撲滅に向けて!」であり、これを達成するために、今後10年の活動方針を「京都宣言」として発信されました。

シンポジウムⅤ
口腔インプラント治療の新しい方向性

シンポジウムⅤ 口腔インプラント治療の新しい方向性

歯科医科連携の共通言語は検査値

座長 :
申 基喆 先生
講師 :
井上 孝 先生

歯科医科の連携の際に歯周病、インプラント周囲炎の病態が数値で表せていないと、医科との話ができないと述べられました。医科では、臨床検査値を基に診断、治療そして予後判定を行うため、歯科医科連携の共通言語は臨床検査値になるであろうという考えを示されました。その例として、インプラントを埋入することで、ドライマウスの患者さんに口腔内の改善が見受けられたという症例を挙げました。これは、インプラントを埋入することでよく噛むようになり、筋肉も動かされ唾液の分泌が改善されたと話されました。このような改善は感覚ではなく、数値で治療の効果を表し判断することにより、歯科医科連携へ繋がると述べられました。

超高齢社会の今、インプラントのこれからは、基礎疾患を持った患者さんが、どのようにインプラント治療を受けるのかを考えることが必要と話されました。
また臨床検査値について歯肉溝滲出液、または唾液の中から炎症性の物質が出てくる数値を医科と同じにし、しかも簡便にしていかなければならないと訴えられました。

実践知から考える口腔インプラント治療の将来展望

座長 :
申 基喆 先生
講師 :
高橋 慶壮 先生

現在のインプラント周囲炎は、明確な定義が定まっていないこと、歯周病患者に対し、インプラント治療を適応する頻度が増すにつれて、インプラント周囲疾患に関することが社会問題になっていると話されました。講師は、インプラント治療の役割、将来展望について、日々の臨床で見てきた患者さんの臨床の観察結果を説明されました。

歯周炎の進行も様々で、それを解析しても非直線的に進むことがあり、インプラント周囲炎に関しても同様であると述べられました。

インプラント治療後17年間経過した今でも、トラブルなく良い状態を維持できている患者さんの症例を発表されました。うまく維持するためには、技術だけではなく患者さんとの信頼関係が大事であり、良い信頼関係が築けないと全身の健康も維持することも難しく、インプラント埋入後にリスクが高まると説明されました。

また、インプラントを埋入しなければ、インプラント歯周疾患は起きないため、基本的には歯周治療をしっかり行い、なるべくインプラント治療は先伸ばしにしていくべきだと考えを述べ、良くない例に、インプラントを複数埋入した患者さんのX線写真を紹介しました。複数のインプラントを埋入する場合は、毎回埋入したところすべて清掃するのが難しいため、インプラント歯周疾患が起こりやすく感染性の割合も上がると説明されました。

特に全身疾患や高齢者に関しては、感染のリスクが高いため、インプラントデンチャーなどで本数を減らして対応するべきであると強調されました。スライドにはインプラントの本数を減らし、インプラントデンチャーで対応した症例の写真が映し出され、取り外し可能であれば、清掃性があがると述べられました。

講師は最後に、現在のインプラント治療は万能ではないが、非常に有益な治療であり、今後もかなり広く浸透していく治療であると述べられました。そして、治療時にリスクの管理や評価をより科学的に数値として出すことを提示し、術後に関してはもう少し考えるべきであると述べられました。

京都宣言「歯周病撲滅に向けて!」

今回のメインとなるこの講演は、本会場と別会場2ヶ所の中継で始まりました。本会場は開演15分前から徐々に人々で溢れ、10分前には満席のアナウンスが流れました。
この講演では各委員会や歯科医療業界の代表7名が登壇し、10分ほど発表されました。今回はその一部をご紹介します。

「サイエンスに支えられたヒューマニティ溢れる歯周医療の具現化を目指して」

「サイエンスに支えられたヒューマニティ溢れる歯周医療の具現化を目指して」

講師 :
西村 英紀 先生

今回の歯周病学会のテーマは、伝統と革新―歯周病撲滅に向けてと題して、理想論ではなくプラティカルな観点から目標を設定したいといった考えを述べられました。歯周病予防・合併症予防・革新的治療・希少(難治性)歯周炎の実態解明について4点を提示されました。

【01】歯周病予防に関しては、栄養学をベースとした効果的な歯周病の予防策の確立を目指すこと 
【02】合併症予防に関しては、歯周医学研究の一層の発信に向け、分子疫学的アプローチを推進すること
【03】革新的治療に関しては、組織再生に向けた基礎研究を推進し、水平性骨欠損に対する革新的再生療法の開発に向け確固たる方向性を導き出すこと
【04】希少(難治性)である歯周炎の実態解明専門的ネットワークを整備・充実し、希少歯周炎の実態把握に向けた取り組みを推進すること

「社会の変化に応じた学会のあり方」

「社会の変化に応じた学会のあり方」

講師 :
山本 松男 先生

20年前までの学術大会に遡り、どのように今までの学会テーマが変化してきているのかと今後の在り方について話されました。20年前の学術大会でのスライドでは「健康日本21」がテーマで、免疫や生体防御の解明、歯周病のリスクファクターや、豊かな老後を支える歯周保健8020運動についての内容であり、10年前は歯周病学から国民健康科学への提言というテーマであったと説明されました。

そして、今回のテーマは「伝統と革新 歯周病撲滅に向けて!」ということで、どのような思いが込められているのかを話されました。歯周病は全身的な健康を維持・増進する上で鍵となる重要な疾患であると述べられ、超高齢化の中で歯周病は体の一つの臓器の炎症性疾患として捉えなければならないと述べられました。現在は、医科歯科連携の治療体制が不可欠で、革新や在り方、撲滅を実行する仕掛けづくりと連携が重要であると強調されました。

最後に、「日本歯周病学会は、歯周病対策を通じて国民の健康増進に寄与するために歯周病治療・予防に携わる行政、学会、団体、企業マスコミなどと連携して医科の活動を推進していく」という京都宣言についてのスライドが映し出され、個々の力を組織化し、歯周病学会がそれぞれ複数の団体と線と線で結ばれるのではなく、軸になりながら様々な問題と照らし合わせ在り方を検討していくべきであると述べられました。

「歯周病予防として早期発見、早期治療の在りかた」

講師 :
森田 学 先生

歯周病の予防は、早い段階での予防が重要で、疾病・異常の被患率が4㎜以上の歯周ポケット保有者の割合をまとめた表を用いて説明されました。疾患率は、高等学校までの4-6%の人がなんらかの歯周異常があると述べられました。また、高等学校までの歯科検診は必須であるため割合が低いが、社会人(20歳以降)の年代から4mm以上の歯周ポケットの割合が一気に増える傾向があり、その背景には歯科の健診を受ける機会が激減していて、歯周疾患検診40-70歳の年代は、検診参加率が20%にも満たない状態であると話されました。

来年度から歯科に関して、特定検診・特定保健指導の問診項目に、食事を噛んで食べるときの状態を把握する項目が追加されると述べられました。検診指導の対象者は約6,500万人おり、この歯科に関する問診が今後どのように活かされていくのかが注目であると話されました。

これからは健康増進対策・早期発見ということで歯科業界が国民に対して診断、集団アプローチしていくことが重要であると述べられました。口腔内状態が悪い人の早期発見だけではなく、良い人を発見することも違う一つのアプローチとして、その良い状態の部分を伸ばしていくことも目的の一つであると述べられました。それに加えて、これを食べたら良い、これは注意しなければならないというものを見つけて広めること、引き続き喫煙や口腔内細菌の量などのリスク因子を減らすことも重要であると話されました。

最後に、早期発見・早期治療があるが、年齢とともに歯周病罹患率は高まっている、それには社会背景も影響するため、政策の後押しも必要であり、すべてのアプローチを多発的につくるエビデンスが必要であると説明されました。

講師は、今後さらに様々な団体が連携してエビデンスを作っていきたいと考えており、目指すところは少し発症を遅らせ、重篤な患者さんを減らしていくことで、最終的に歯周病の撲滅、8028社会の実現が近づくのではないかと強く述べられました。

シンポジウムⅡ
歯周病専門医の育成を考える

私の学んだアメリカの歯周病学から、専門的歯周病治療を考える

私の学んだアメリカの歯周病学から、専門的歯周病治療を考える

座長:
三谷 章雄 先生
講師 :
二階堂 雅彦 先生

講師は1994年から3年間、タフツ大学歯学部歯周病学大学院を卒業。今回の教育の面からアメリカと日本を対比し、インプラント・歯周治療について話されました。

アメリカと日本の大学の違い

①アメリカの大学の授業内容は、エビデンスに基づいた授業であり、エビデンスに精通することを求められる。
アメリカでは、歯科医師会が力を持っているため、大学の授業内容は、学会が推薦する認定プログラムが基本となっていると話されました。在学中の授業内容は、歯周病専門医になる認定プログラムと、歯周病学会認定プログラム以外で大学側がインプラント治療に関する授業を組み込んでいたと説明されました。

②日本の大学は、博士課程を取ることがゴールとなっていることに対し、アメリカの大学は、スペシャリスト(専門医)の歯科医になることがゴールとなるため、授業の目的に相違がある。
講師の学生生活で治療を有する授業は、治療計画を立て、先生からの治療の許可が下りると、治療のステップをチェックし手術も学生が行うと説明されました。そのため学生の間の外科手術数は、歯周外科処置250以上、インプラントの埋入本数は50本であることを話されました。

最後に、治療事情について述べられました。アメリカの歯周治療の臨床は、この20年間で歯根膜に対する回復への信用が低下したため、インプラントや、All-on-4に変わっていったと話されました。そして、アメリカは特に訴訟を起こすことが多いため、専門の治療以外は行わず、各専門医を紹介すると説明されました。

ランチョンセミナー

歯科衛生士が行う「歯科診療の補助」とは

歯科衛生士が行う「歯科診療の補助」とは

講師:
木下 淳博 先生
協賛企業 :
グラクソ・スミスクラインコンシューマー・ヘルスケア・ジャパン株式会社

歯科衛生士の業務の一つである歯科診療補助と言うと、バキュームなどを思い浮かべる方が多く、歯科診療補助とはどの業務範囲を指すのかということを再考する内容でした。
セミナー中は、聴講者が無料クリッカーサービスを使用し、Q&A参加型で、携帯端末に表示された講師からの選択問題に回答していました。中央のスクリーンで聴講者全体の回答数が共有され、回答を変更すると合計数値がすぐに反映されました。携帯端末から講師にオンタイムで質問を送信できるシステムを使うことにより、講師と聴講者が一体となって作るランチョンセミナーとなっていました。

新しい歯周治療の選択肢 -歯周組織再生材「リグロス」を知っていただくために

新しい歯周治療の選択肢 -歯周組織再生材「リグロス」を知っていただくために

講師:
北村 正博 先生
協賛企業 :
科研製薬株式会社

再生医療の期待が高まってきている中で、2016年12月より販売されている歯周組織再生材のリグロスについて、完成して使えるようになるまでの臨床試験の経緯を交えた説明と、使い方、効果について話されました。

歯周組織再生は現在、保険外で適用されている自家骨移植やGTR法は、施術が困難であり、エムドゲイン法は動物性由来の成分が含まれています。そこで、講師の研究グループはサイトカインという細胞から分泌されるタンパク質に注目し、血管新生作用と細胞増殖誘導の成分を有するFGF-2という細胞増殖因子を使用した新しい歯周組織再生治療法を考えたと説明されました。

はじめに、FGF-2が歯周組織を再生していくメカニズムについての図を交えて、歯周組織欠損部の未分化間葉系細胞と歯根膜由来細胞に対して、増殖促進作用を示すことにより血管新生促進すると述べられました。これらの作用により細胞が増殖し、骨芽細胞やセメント芽細胞へと分化し、歯槽骨やセメント質及び歯根膜の新生や結合組織付着の再構築により歯周組織が再生されると説明されました。

次に、リグロスが販売に至るまでの経緯を話されました。
北村氏のグループらは1992年から研究をはじめ、まずはビーグル犬の歯周病の臼歯を使い治癒の経過の観察を行いました。FGF-2を投与したところ、3日後に一部に組織の形成の変化がみられ、14日後にはあらゆる歯槽骨再生が起こりました。そして28日目には投与したところが新生骨で満たされる結果となりました。ビーグル犬で効果がみられたので、次に人間に近い霊長類のカニクイザルでの実験をしたところ、この実験でも歯周組織再生骨芽細胞や、歯根膜細胞の増殖結果が見られたことでようやく実際の患者さんに被験者になってもらうことができました。2002年から2015年の間臨床試験を行った結果、エムドゲイン法よりも優位な歯槽骨増加がみられ、大きな副作用が認められないことなどが判明し、2016年10月に製造販売承認申請を厚労省に行うことができ、同年12月に販売することができました。

リグロスは、歯槽骨欠損ポケット深さが4㎜以上、骨欠損が垂直性で3㎜以上が適応しているが、インプラントに関してはデータがないので有効性と完全性は確立していないと述べられました。そして、臨床症例を経過観察した写真とともにいくつかの歯周組織の再生された例を紹介されました。
またFGF-2での歯周組織再生が、歯の保存にどれぐらい貢献するのかということで、治療後に歯周外科処置や非外科的な歯周組織治療がどれぐらい行われたのか?ということも調査しました。結果、従来の再生療法で行うよりも、FGF-2で治療したものの方が、処置の発生する可能性が低く、長期的な有効性も確認でき、歯肉の異常なども発生せずに安全性も確認できたと述べられました。

講師はリグロスを使用する際、適応症に的確に使用すること、手術後もしっかりメインテナンスを行うことを述べられ、保険適用の医薬品であり、新しい治療の選択肢としてより多くの人によく理解して使用してもらい、リグロスを育ててほしいと強く訴えられました。

症例展示

症例展示では、インプラントに関する展示も多く、インプラント体の形状と歯周組織について、インプラント埋入後のプラークコントロール、セルフケアのモチベーション、など多くの症例が展示されていました。

商社展示

商社展示

商社展示は、歯周病学会であるため、各社、歯周病に関する商品・商材が目立ちました。
展示ブースの中には、口腔内細菌にアプローチをする口腔ケア食品の、ロイテリ菌を使用したサプリメントが紹介されていました。ホームケア用品は、歯周病用歯磨剤、根面う蝕を意識した歯磨剤が多く紹介され、電動歯ブラシ、スケーラー、インプラントなど医療従事者にとっては、興味深い商材が展示されていました。

メディカルブース

メディカルブース

今年もメディカルネットはブースを出展し、インプラントネットの紹介を積極的に行いました。
また、多くの歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士の方にお立ち寄りいただきました。

レポート:インプラントネット運営部
※講演の発表内容については、当サイトにおいて必ずしも保証するものではございません。