インプラントのコンプリケーション(合併症)
- 講演日:
- 2018年6月10日
- 座長:
- 城戸 寛史 氏
学会2日目午前、東京国際フォーラム ホールCでは、座長として城戸 寛史 先生を迎え、「インプラントのコンプリケーション(合併症)」のテーマのもと、4つの講演が行われました。
講演の内容は前後それぞれ2パートに分けられ、セッションを含む構成となっていました。
そのうち後半に行われた、臨床医2名の講演についてレポート致します。
審美領域のインプラント治療におけるジレンマ
- 講師 :
- 寺本 昌司 氏
ご自身の治療経歴を踏まえ、それまでの機能性・清掃性を重視したインプラント治療から、審美性や永続性も要求されるようになったことについて述べられていました。
講演のテーマとして掲げているジレンマを治療において感じる場合、どの治療法を選択するかについては、「リスク(危険)とベネフィット(ご利益)を天秤にかけて判断する必要があるのではないか」と述べられていました。
その上で、インプラントの優位性だけを説明するのではなく、「患者さんに対してインプラントと天然歯を比べたときに、インプラントの良くない面もしっかりと説明し、どうするかを患者さんに選択してもらう必要がある」、「原点に立ち返って出来るだけ歯を抜かずに治療すべきではないか」といった考えを述べられていました。
前歯の審美領域は補綴のみの治療は難しい部分であり、歯科医師としても患者さんへの治療期間や手術回数の負担を少なくしていきたいともおっしゃっていました。
さらに、インプラントの確実性や永続性が得られるためにも、抜歯を含めて複数回の手術の間に、段階的に足りない部分を補うような治療を行うことで、安定的な結果を得られる場合もあるということ。しかし、反復手術を行うことに対してのリスクというジレンマもあるため、「どのタイミングで効果的な処置を行うかも大切になってくる」ともおっしゃっていました。
また、GBRでの限界についても触れられており、「日本人の場合は抜歯即時埋入よりも2~3ヵ月程度の早期埋入が向いているのではないか」、「インプラントを埋入する場合は硬組織も軟組織も増加した方が安全な治療が行えるのではないか」とも述べられていました。
最後に、「臨床医は患者さんのためと称して、自分がしたいこと、チャレンジしたいことをしてしまいがちだが、治療はチキンレースではいけない。確実に確信をもって治療を行うことが大事ではないか」とまとめられ講演は締めくくられました。
インプラント治療の光と影 ―顎骨成長の観点から―
- 講師 :
- 船登 彰芳 氏
講演の導入として、「歯顎に対する応用、部分欠損症例に対する応用など、インプラント治療は拡大し、現在は欠損に対する一つの有力なオプションとしてインプラント治療が行われるようになって時間が経った」とおっしゃられていました。
問題提起としては、「インプラント治療の範囲拡大の側面で長期の患者さんから目を背けていないか」、「何を経験しているか、経験してきたか、それがすべて現実か」ということ。また、今回はテーマではないが「インプラント周囲炎もまた歯科医師が起こしたものかも知れない」とも挙げられていました。
本題としては、インプラント治療後のオープンコンタクトロスを取り上げられ、場合によっては技術的な問題も含まれるが、天然歯の移動、天然歯の長期における咬耗、顎骨の成長が考えられると話されました。
オープンコンタクトロスの発生頻度についてはおよそ4割前後(インプラント学会では57%以上という報告もありとのこと)の症例で発生しうるものであること。インプラント治療を臼歯部に行う場合は、「オープンコンタクトロスが起こる可能性があること」この2点を患者さんに伝えなくてはいけないとの考えを述べられ、先生自身がこの問題に対応するのにあたっては、現在はねじ止め式のインプラントの補綴物を使用しているそうです。
インプラント治療を行う場合は「天然歯は動き、顎骨は成長する、インプラントは置き去りになる」それらを踏まえて考えて治療後のメインテナンスをしていく必要があること。歯科医師は「部分欠損症例で学んだ、一次固定・二次固定をインプラント治療に応用し、もう一度学び直さなくてはいけないのではないか」ともおっしゃっていました。また、そうすることによって咬合の管理がしやすくなるかもしれないと提言されていました。
インプラント治療が行われるようになり、「いろいろな歯顎に関する問題が解決できるようになった反面、問題も多く出てきたこと」、「インプラント治療を行う前に、その対象の歯が残せる可能性を考えるべき」との提言でした。
患者さんに対しては「オープンコンタクトは半分の患者さんで起きうることであり、若い患者さんの場合は審美的な問題が起きる可能性があるので、上部構造を将来的にやり直す必要があるかもしれないことを伝えていかなくてはいけない」ともおっしゃっていました。
さらに、先生自身はそれを踏まえた上で、咬合の管理は必須だとも提言され、講演を締めくくられていました。